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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
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意思疎通で重要なこと 言葉の奥の意味(2月4日付)

2026年2月6日 09時20分

「ヘルンさん言葉」というのがある。ドラマなどで注目される小泉八雲=ラフカディオ・ハーンが妻セツとの間で交わした、二人にだけ分かる言葉だ。「スタシオン ニ マツノトキ(停車場での待ち時間)」など、英語と日本語(出雲弁)を混合し文法を簡略化した独自の語法で、夫婦で「テンキ コトバナイ(天気は申し分ない)」などと話したという。

これは言語の壁を乗り越えた二人の愛情のエピソードだが、福祉や医療、また災害も含めたあらゆる寄り添いの現場における支援者と被支援者と一対一の意思疎通にも当てはまるキーポイントだ。そこでは言葉も気持ちの込めようによって独特の意味を帯びる。

介護関係者の体験で、認知症の傾向のある高齢男性がケアラーに「熱海に行きたい」と繰り返す。熱海はかつての男性の故郷に近いが、それよりただ温泉に入りたいのか。当人にとっての「熱海」には独特の意味があり、他者には分かりようがないのかもしれない。

だが、およそ介護やケアというものは、その本人の思いをくんで寄り添うために言葉もフル動員して意思疎通に努力することが前提となる。そのためには、個々の人と人としての関係性、付き合いが重要なカギだ。

事情を調べると、男性は徘徊の恐れがあるので自宅玄関には家族によって複数の鍵がかけられ、自由に外出がままならないという。「行きたい」に主眼があるのであって「熱海」は望ましい「外」の象徴なのか。するとここでは「熱海は遠いから無理です」ではなく「ちょっと散歩に出ましょう」の意味で「熱海に行きましょう」と呼び掛けるのも一案となる。

ただし実際の現場では、被支援者が「放っといてくれ」と、口に出す言葉と内心の考えがしばしば食い違う、場合によっては正反対であることも少なくない。支援者は、相手の言葉面の奥に隠された本当の気持ちを探るために努力することになる。

「死にたい」と訴える自死念慮者は「本当は生きたいけど状況が死ぬほどつらい」と叫んでいるのであり、絶望感が強過ぎたり支援を乞うに遠慮が先立ってしまう被災者や生活困窮者は決して「助けて」とは言わない。

そこでひたすら気持ちを聴く「傾聴」が大事ではあるが、困難もある。話を受け止め続けた自死念慮の相手から「大木に向かって話しているみたい」と言われた僧侶もいる。要は、そこでの言葉の使い方、応答する姿勢も含めた臨機応変で多様な意思疎通の在り方が肝要だろう。

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