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中外日報社「宗教文化講座」

政教分離法成立120年 仏のライシテをどう理解するか

東京大大学院教授 伊達聖伸氏

時事評論2026年1月21日 09時34分

1905年12月9日に制定されたフランスの政教分離法は昨年120周年を迎えた。120は必ずしも節目の数字ではないと思われるが、昨今のフランスにおけるライシテの重要性に鑑み、政治的にも市民社会でも学術面でも記念行事が開催された。

政治学者アラン・ポリカールは『ル・モンド』のインタビュー(昨年12月18日付)で、本来の政教分離法は自由主義的な原理に基づいていたが、現在は安全保障上の関心から価値としての強制性を帯び、特にムスリムを標的にする方向に傾いていると指摘し、寛容の精神の回復を訴えた。

これに対し、市民団体「ユニテ・ライック」会長は年明け早々に反論記事を同紙に寄稿し(1月3日付)、ライシテは個人を宗教的抑圧から解放し、法の下の平等を保障する制度的基盤であって、それは反イスラームでも、宗教的多元性を管理する原理でもないと主張した。両者の応酬は典型的な対立構図を示しており、熱を帯びた論争が続いている様子が窺える。

こうしたフランスの議論は、日本社会ともけっして無縁ではない。だが、日本からなら一定の距離を設けて眺め、冷静に考えることができる対象でもある。

昨年10月から12月にかけて宇都宮美術館で開催された企画展「ライシテからみるフランス美術――信仰の光と理性の光」が、1月17日から三重県立美術館に巡回する(3月22日まで)。「ライシテ」の名を冠した日本初のこの企画展に、私は学術協力者として関わっている。カタログに原稿を書いたり、かぎられた予算内で国内所蔵作品のみによる出展作品の選定作業に立ち会えたりしたのは貴重な経験だった。

近代フランス美術にライシテの展開という補助線を入れ、新たな光を当ててみるというこの野心的な企画の仕掛け人は、宇都宮美術館学芸員の藤原啓氏と三重県立美術館学芸員の鈴村麻里子氏である。首都圏や京阪神でもやったらよいのにと言うと、藤原氏からは、それだと来場客は人口の多い都市に流れてしまう、企画の魅力で地方に足を運んでもらいたいとの気概ある答えが返ってきた。10月の宇都宮会場での開幕後は結構な評判を呼び、カタログはオンライン販売では早々に、会場でも完売した(三重会場には残部あり)。

鈴村氏は美術館教育も担当しており、展示室解説文の作成に当たっては、美術館初心者の中学生が読んでも理解できる表現を目指しているという。美術館が、年齢や障碍の有無を問わず誰もが利用できる公共空間であるからには、分かりやすさと包摂性は不可欠な要素である。ライシテ展は、フランス近代美術に新たな光を当てると同時に、異なる背景をもつ人びとが共に生きるための理念を、実践的に問い直す機会にもなっている。

宗教や文化の異なる人びとが集まる社会で、誰もが安心して生きるための条件を探る思考の枠組みとしてのライシテ。このようなライシテ理解が日本の一角で、現代フランスの政治的対立から距離をとりながらなされていることに、ささやかな希望を見出したい。会期中にぜひ三重会場を訪れてみてほしい。

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