カピラ城比定遺跡巡る現状(1/2ページ)
法華宗(陣門流)別院本妙寺住職 村上東俊氏
釈尊出家の地と目されるティラウラコット遺跡の世界遺産登録が見送られた。この一報を聞いた時、全身の力が抜け落ちる感覚に襲われた。ユネスコ第47回世界遺産委員会はパリ本部において7月6日から16日の日程で開催された。ネパールからは、パンデイ文化観光大臣をはじめルンビニ開発トラストのラルキャル副会長、ネパール政府考古局の高官らが代表団として派遣された。ネパールが世界遺産登録を目標に国際的な協力体制で臨んだ10年間の取り組みは、期待された成果を収めることができなかった。
今回の敗因として、まずネパール側がユネスコの諮問機関イコモスによる事前の延期勧告に上手く対応できなかったことが挙げられている。インドの支持や委員会を組織する21の加盟国から修正案や協力を得られなかった外交面の弱さが浮き彫りになった。加えて、遺跡の保全体制や管理の枠組みがユネスコの求める基準に到達していなかったことも指摘されている。これらの問題は以前から改善を求められていた。実際、同国で1997年に世界遺産入りした釈尊ご生誕の地ルンビニも過去に危機遺産リストへの警告を受けた経緯がある。ルンビニは直近の遺産保護活動が評価され、今回危機遺産入りを回避したのは朗報であった。
ティラウラコットが世界遺産登録を逃した背景は、言わば運営上の技術的組織的な不備が主な理由であり、遺跡が有するカピラ城としての本質的価値が否定された訳では決してない。むしろ、この10年のユネスコによる発掘調査では、重要な発見が相次ぎ、ティラウラコットの高いポテンシャルが改めて証明されたと筆者は考えている。
2010年、ユネスコの主導でルンビニの保護と管理を目的としたプロジェクトが日本の政府系信託基金(JFIT)の出資のもと発足した。プロジェクトのチームリーダーは西村幸夫教授(國學院大學)が務め、考古学部門を英国のロビン・カニンガム教授(ダラム大学)とネパール政府考古局の元局長コシュ・プラサッド・アチャールヤ氏が中心となり、多国籍チームを編成して発掘調査を指揮した。
第1期はルンビニを調査対象とし、第2期からティラウラコット発掘と大ルンビニ圏(GLA)と称するルンビニを中心とした東はラーマグラーマから西はティラウラコットまでの約50キロ圏内に点在する仏教遺跡群を視野に入れた調査が進められた。第3期・第4期ではティラウラコットの世界遺産登録を見据えた調査、遺跡の保存や管理計画の策定が行われた。さらに遺跡エリアのゾーニングや整備のための用地取得など世界遺産に向けた具体的な実務も展開され、24年にプロジェクトは終了した。
法華宗(陣門流)は、このプロジェクトにいち早く協力を表明し、6万米ドルの経済支援を行っている。また筆者の師父・故村上日源師がティラウラコット遺跡から南西70メートルの地に建立した寺院リッショウイン・シャンティビハールは、発掘チームに滞在施設と作業場を提供して調査を支援した。
失われた釈迦族の王城カピラ城の所在を巡っては、1898年にW・C・ペッペがインド領にあるピプラハワ遺跡で釈迦入滅後に8分割されたご遺骨の1つと推定される仏塔を発見し、ピプラハワがカピラ城の有力候補地として名乗りを上げた。99年には、インドのP・C・ムケルジーがはじめてティラウラコットで本格的な調査を行い入竺僧や経典が伝えるカピラ城の特徴などを精査して、ティラウラコットの他にカピラ城に相応しい遺跡はないと結論づけた。1962年、インドのD・ミトラは、ティラウラコットの北側防護壁で部分的な発掘を行い紀元前3~2世紀以前に集落を形成した痕跡はないとし、ティラウラコットは釈尊の時代まで遡る遺跡ではないと断定した。67~77年には日本の立正大学がネパール政府考古局と合同調査を行い、中村瑞隆元学長が団長となって調査を指揮した。
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