カピラ城比定遺跡巡る現状(2/2ページ)
法華宗(陣門流)別院本妙寺住職 村上東俊氏
立正大学の大きな功績として、第2号丘と第7号丘を発掘して遺構の年代を紀元前4~紀元3世紀と推定した。
以来、ネパールはティラウラコット遺跡を、インドはピプラハワ遺跡(ガンワリヤ含む)をそれぞれカピラ城であると主張してきた。
今回のユネスコの調査では、土壌や地質分析、磁気探査や地中レーダー、炭素測定などの高度な科学的手法を用いてティラウラコットの全体像が解明された。まず、ティラウラコットの初期集落は紀元前8世紀に遡ることが確認された。そして紀元前6世紀には東西と南北に走る道路網が整備された南アジアにおける最初期の格子状都市であることが判明した。また都市の周縁には多層的な防御策が施されていて、防護壁と併せて外側には堀や古水路の存在が確認されている。さらにD・ミトラによる北側防護壁の調査を再検証した結果、紀元前6世紀には木製の防護柵が存在していたことから、D・ミトラの主張は完全に否定された。
また本調査で特筆すべき成果は、第5号丘周辺で東西100メートル×南北100メートルの巨大建造物(CWC)が発見されたことである。遺跡の中心に位置し、四方を堅牢な煉瓦壁で囲われたその佇まいは宮殿の如き威容を誇っている。法顕の『法顕伝』では「白淨王の故宮」、玄奘の『大唐西域記』では「浄飯王の正殿」と記される宮殿跡と推測される。次に城外東側に位置するカンタカ塔と呼ばれる仏塔の南側エリアで、東西100メートル×南北250メートルの巨大な僧院施設の存在が明らかになった。これは『大唐西域記』に「宮城の側には一伽藍あり」の玄奘の記述に符合する。これまでティラウラコットに僧院はないと考えられていたが、それを覆す画期的な発見であった。
このようにユネスコのプロジェクトはティラウラコット調査史上、金字塔と言うべき歴史的成果を挙げた。とりわけ遺跡の全体像の解明、また19世紀末から考古学者が探し求めてきた法顕や玄奘の記録に符合する宮殿跡や東側僧院の発見は、ティラウラコットを釈尊出家の地カピラ城と確定するに足る十分な証拠である。筆者は130年におよぶカピラ城探索に終止符が打たれたと考えている。
一方で、世界遺産登録を目指すネパール政府は、遺跡とその周辺エリアの用地買収も積極的に進めてきた。ユネスコの基準に合わせて、遺産ゾーン・緩衝ゾーン・制限ゾーンの3種に区分した。そして最も規制の厳格な遺産ゾーン内に存在する集落とリッショウイン・シャンティビハールが用地買収の対象となった。この買収の経緯については、立正大学の則武海源元教授が本紙「論」(2020年)上で当時の状況に懸念を示されている。想定外であったネパール政府の決定にシャンティビハール関係者は大きな衝撃を受けたが、故村上日源師の「ティラウラコット遺跡の平和と発展に寄与する」という理念のもと、政府の方針に賛同・協力すべきとの結論に達した。最終的に境内地の4分の3とゲストハウスが買収され、本堂と僧房及び境内地の4分の1が存続したのは幸いであった。
パリから戻ったパンデイ文化観光大臣は、帰国後の講演で来年の世界遺産委員会でティラウラコットを再申請すると明言した。過去にルンビニは世界遺産で2度の失敗を経験しており、再挑戦は当然である。しかし楽観は全くできない。やはり成否の鍵はインドの支持を得ることにかかっている。ティラウラコットとピプラハワが釈迦族の王国カピラバストゥに存在したことは疑いない。そうであるならば、国境を跨ぐ世界遺産としてインドとの共同申請を模索することも選択肢の一つではないだろうか。
世界の仏教徒が巡礼に集う釈尊出家の聖地に今熱い視線が注がれている。
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