《「批判仏教」を総括する⑦》批判宗学を巡って(1/2ページ)
駒澤大仏教学部教授 角田泰隆氏
「批判宗学」とは、袴谷憲昭氏の「批判仏教」から大きな影響を受けて、松本史朗氏が“曹洞宗の宗学は、「伝統宗学」から「批判宗学」に移行すべきではないか”として提唱した宗学である。既成仏教教団には大概その宗派に関わる学問である「宗学」がある。曹洞宗においても、道元禅師の直弟子の『正法眼蔵』の註釈が存在し、それに基づいて宗義を理解するいわゆる「伝統宗学」が主流をなしてきた。直弟子による道元禅師の教説の解説であるから、それを至上として仰いできたのである。
この「伝統宗学」の基本的態度は仏の側に立ち、能所・相対を絶し二見を立てず、実践(修行)を重んじるものであった。明治・大正期に至るまでこの態度は継承され、昭和期に入って道元禅師研究に近代的研究の新風が吹き込まれるようになるまで、きわめて信仰的な立場から道元禅師の教えに只だ只だ参じ学ぶといった「参究」の態度が貫かれてきたのである。
ところで、松本氏が提唱する「批判宗学」とは、つぎのように定義される。
①いかなる対象も絶対視・神秘化することなく、絶えず自己自身を否定しつつ、宗門の正しい教義を探求すること。②「いかなる対象」とは、“いかなる人物(宗祖)、テキスト(宗典、経典)、行(坐禅)、教義(縁起説)等”を意味する。③従って、批判宗学は、密教の否定である。④批判宗学は、宗祖無謬説に立たない。一切のguru(尊師)崇拝を排除する。⑤道元の思想的変化を認め、道元が目指そうとしたもの(正しい仏教)を目指す。⑥批判宗学自身の見解は、縁起説であり、行は、縁起説にもとづく誓度一切衆生(自未得度先度他)の行である。⑦批判宗学は、本質的に、社会的(「誓度一切衆生」)でなければならない。⑧曹洞宗は、『弁道話』の見解と行、即ち、如来蔵思想(「仏性顕在論」)と神秘的密教的坐禅(「一寸坐れば、一寸の仏」)を捨て、後期道元のものと思われる「深信因果」(縁起説)と「誓度一切衆生之坐禅」にまで、進むべきものと思われる。(「伝統宗学から批判宗学へ」『宗学研究』第40号、1998年3月)
これが、松本氏が提唱する「批判宗学」である。松本氏は袴谷氏の「批判仏教」の提唱以前から「如来蔵思想は仏教にあらず」(『印度学仏教学研究』35―1、86年12月)をはじめこれまでの仏教に対して批判的研究を行っていたが、袴谷氏の「批判仏教」の影響を受け、仏教研究のみならず曹洞宗の「宗学」に対しても批判的視点が必要であると主張したのである。
私も自らの研究及びその対象に対して批判的視点を持つことは必要であると自覚しつつも、曹洞宗の宗侶として、宗祖(曹洞宗の両祖の一人)である道元禅師に対する批判的な論述に沈黙することができず、「批判宗学」批判(『駒澤短期大学研究紀要』第26号、98年3月)で反論するにいたった。その主旨は以下である。
松本氏は、①いかなる対象も絶対視・神秘化することなく、絶えず自己自身を否定しつつ、宗門の正しい教義を探求することとするが、「宗門の正しい教義を探求する」場合、何を拠り所とするのかといえば、当然それは宗典に依らざるを得ない。その宗典から「宗門の正しい教義を探求」して「正しい教義」を定める場合、誰がそれを定めるのか。袴谷氏の「批判仏教」では、「自らの判別(智慧)」であるとするが、そうであるならば、それは自分自身を絶対化することにならないのか。「正しい教義」を松本氏自身が定めるとしたら、「自己自身の否定」になるのか。
宗学における「自己自身の否定」とは、己見に依らず、道元禅師の教説について価値判断を加えない、つまり、その教説について自らの判断で判別しないということである。宗学とはそのようなものであると私は考える。
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