「歌薬」で人の心を癒やす歌手 澤田知可子さん(59)
真言宗智山派六波羅蜜寺(京都市東山区)で開山・空也上人1050年遠忌を記念し、上人の和歌を詞に用いた「ひとたびも―祈りの声」を奉納した。大ヒット曲「会いたい」を各地で歌い、涙で心を浄化する「歌セラピー」に努める自身と、念仏を称えながら諸国を巡った空也上人を重ねる。
甲田貴之
「ひとたびも―祈りの声」は、空也上人の「ひとたびも なむあみだぶつといふひとの はちすのうえに のぼらぬはなし」という和歌を詞にしています。どのような歌なのでしょう。
澤田 仏になることは特別なものではなく、あなただって仏様と同じなんだよという意味だと思いました。この和歌の力がすごくて、歌う時には余計な自分の思惑を入れずに、メロディーに言葉を乗せるだけでした。私自身もありがたい気持ちになって空也上人が降りてくださって聞いてくれていたらいいなと思っていました。歌い終わった後に川崎純性ご住職が「降りてきて見守ってくださっていた」と教えてくださり、すごくうれしかったです。
歌うことになったきっかけは。
澤田 3年前、私も夫も心にダメージを受ける経験がありました。そんな時に、知人から紹介されたのが六波羅蜜寺でした。ご住職の迫力ある法要に参列した後、1050年遠忌に向けて歌を作ってくれないかとご依頼を受けたのです。最初は「私でいいんですか?」とびっくりしました。でも、これもお役目を頂いたんだ、悲しい経験もこのためだったんだとふに落ちました。
父が会津(福島県)の出身なのですが、実家の近くにある八葉寺というお寺が空也上人の建立なんです。絶対に縁だなと思いました。私は歌を届けるために全国を巡る旅芸人だと思っていましたから、空也上人の代わりに歌で、その教えを届けていくんだという意識を抱きました。
仏教に関心はありましたか。
澤田 歌手デビューする時にお坊さんに相談したんです。その時に「般若心経を歌にするような人生にしなさい」と言われました。「会いたい」が大ヒットした後、それを乗り越えようと頑張ってきました。しかし、振り返れば「会いたい」が私を育て、気付きを与え、試練もくれ、今も様々なご縁を結んでくれる。今の私にとって「会いたい」は般若心経なんです。
コンサートの場では皆さん、悲しみや悩みを置いて帰られます。私たちは歌いながら、その思いを引き受けます。私にとってのその思いを浄化してくれるのがマントラでした。
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