「恩おくり」の活動に取り組む 本郷由美子さん(56)
「人が人を傷つけるが、人を救うのも人」――。2001年の付属池田小事件で愛娘を亡くした。その悲しみを支えてくれた人々への感謝を踏まえ、グリーフケア・スピリチュアルケアを学んできた。絵本などに囲まれて静かに自分自身と向き合える場所として「ひこばえ」を20年に開設するなど「恩おくり」の活動に努めている。
佐藤慎太郎
ご自身のグリーフ(悲嘆)との向き合い方は。
本郷 PTSD(心的外傷後ストレス障害)にも苦しんだ昔のような激しさはなくなり、穏やかなものに変わってきましたが、グリーフは一生続くものでその根底にあるのは愛情や愛着なんです。愛しい存在が確かにあるのだとグリーフを抱きしめています。
私の娘は68歩、歩いてから亡くなりました。私は現場に行って「69歩目は手をつないで歩かせてください。頑張って生きるから」と誓いました。いつか娘と再会できる、そのために生きている、という気がしています。普通なら歩くことのできない68歩に込められた、生きたいという気持ち、最期の瞬間まで生きようとする力をくみ取ることができたのだと考えています。
現在どのような活動に取り組んでいますか。
本郷 基本的にはグリーフケア・スピリチュアルケアに関わる活動です。講演会や犯罪被害者支援、命の授業、個別相談などを通じて、グリーフを抱えた人が日常生活に戻る際のサポートをしています。
東京都台東区の浄土宗光照院の「こども極楽堂」に「ひこばえ」を開設したのは、これまでの活動を通じてどんな方でも安心して訪ねることができる場所へのニーズが多いと感じていたからです。すぐにコロナ禍に入ったので完全予約制になりましたが、中には家にいることに苦痛を感じる方、遺族同士の分かち合いがしんどくなってしまう方もいるようです。
全国から様々な人が来ますが死別のグリーフに特化しているわけではありません。病気の当事者や、コロナ禍で疲弊したエッセンシャルワーカーの方などもいました。スタッフはあえて同席せず、一人で自分自身に向き合える場所、そうした空間をつくることを心掛けています。グリーフには言語化できないことも多いのですが、無理に言葉にすることで自分を責めてしまうこともあります。焦らなくていい。あなたのペースがあると伝え、必要があれば個別面談や医療など専門家へもつなげるようにしています。…
つづきは2023年2月8日号をご覧ください