仏教の教え 性差別ない LGBTらの悩み傾聴
大阪府守口市・単立性善寺 柴谷宗叔住職
小学生の頃から男性を演じる息苦しさを感じてきた。だから、会社員時代に趣味の四国八十八カ所霊場巡りで出会った遍路仲間から女性に見られたことが何よりもうれしかった。
お遍路さんの着る白装束に男女の区別がないように、仏教は性の違いを超越している――。柴谷宗叔氏(69)は2005年に高野山真言宗の僧籍を取得し、10年には女性への性別適合手術も受けた。18年に大阪府守口市の単立寺院の住職となり「性善寺」と名付けた。誰もが仏の素質を持つという性善説が由来で、性で悩むのは悪いことではないとの思いも込めた。
寺では毎月最終日曜日に性的マイノリティー(LGBT)の悩み相談会がある。11月26日には10畳ほどの小さな外陣が約30人の参拝者で埋め尽くされた。LGBTの人だけでなく、お遍路仲間も集う。柴谷住職が約1時間の護摩供法要を行った後、参加者が住職を囲み、カレーを食べながらよもやま話に花が咲く。
「最初はゲイはゲイ同士、レズビアンはレズビアン同士、お遍路仲間はお遍路仲間同士でしか話をしていなかったが、顔を合わせるうちに相互に打ち解けるようになった。そうなると『性自認が違うだけで、みんな普通の人やねんな』という当たり前のことに気付いてくれた」
自身は大手新聞社で長年勤務。スーツにネクタイという服装に嫌気が差しながらも必死で男性を演じた。その分、プライベートでゲイバーに通って素の自分を解放し、ストレスを発散した。
1991年に会社の慰安旅行で西国三十三所第1番札所の天台宗青岸渡寺を訪れたのがきっかけで霊場参拝を始めた。西国霊場を満願した後、四国霊場も巡った。
95年に阪神・淡路大震災で神戸の自宅が全壊するも、大阪の実家にいたため難を逃れた。自宅のがれきの中から納経帳が見つかり、仏に救われた気がした。3年後、自宅再建の御礼参りに四国霊場を再び巡った。本格的に仏教を学ぼうと、高野山大大学院にも週1回通った。仕事との両立が難しくなり、2004年に退職。重圧から解き放たれたように性別適合手術を受け、僧籍の性別も女性に変えた。高野山真言宗では初の事例だった。
その歩みは同じ悩みを抱える僧侶の道標にもなっている。「この寺で保たれている多様性を認め合う雰囲気を社会全体に広げたい」。根底にあるのは「仏教の教えに性差別はない」との信念だ。
(岩本浩太郎)