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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

曽我ははたして親鸞の往生論を誤解したか(2/2ページ)

京都大名誉教授 長谷正當氏

2017年11月8日
現生は超越的浄土を受け止める場

(3)曽我の往生論に対する氏の批判が的外れであるのは、氏が、曽我の「現生往生論」を「現世往生論」と決めて批判されているということである。氏は、「現世往生」を、「来世の往生を現世にもってきて、現世で往生すること」と捉えられていると思われる。つまり、浄土を現世に取り込んで、「娑婆即寂光土」ないし「即身成仏」を説くものと考えられているようである。しかし、曽我が説くのは「現世往生」ではなく、「現生往生」である。

現生往生とは、浄土の超越性を否定するのではない。浄土はあくまで現世を超越している。しかし、その超越的浄土は未来から現在のわれわれのもとに到来して来ている。それを感得する場を「現生」とするのである。したがって、現生とは現世のことではなく、浄土や往生を受け取り、感得する「場」のことをいうのである。

浄土や往生を死後の事柄として来世に押しやるなら、浄土はわれわれと全く無縁なものになる。しかし、浄土は何らかの形で、未来から、死すべき者としてのわれわれ衆生の生きる世界に到来し、働きかけている。武内義範師の言葉を借りるなら、浄土は、「未だないという否定を含んだ形で現在に到来してきている」。未来から「将来する浄土」を受け止め、自覚する場がなければならないが、それを「現生」とするのである。したがって、現生往生がいわんとするのは、往生や浄土を現世の事柄にしてしまうことではなく、現世を超越する浄土を感得する場は、死後ではなく現生になければならないということである。

浄土教の往生思想の起源は死んで天に生まれる「生天思想」にあった。それゆえ、往生は死後でなければならなかった。現世往生という概念は往生の概念に矛盾する。小谷氏は、仏教学・仏教史学者として、往生概念を破壊する現世往生論は断固粉砕しなければならないと決意されたのか。しかし、それは氏の思い違いであった。氏は、中世の騎士物語を読みすぎたドン・キホーテが風車を巨人と間違えて突撃したように、曽我の現生往生論を、往生概念を破壊する巨人と錯覚してこれに激突されたのである。

(4)親鸞は真宗の教えの根幹に回向を捉えた。回向とは何か。それは、如来のはたらきが天空ではなく、衆生の歴史的世界に現れ、呼びかけてくることである。歴史的世界に生きる衆生があって初めて「回向」や、「回向成就」ということもありうる。回向の核心が、如来のはたらきを現生において受け取ることにあるなら、回向のはたらきを受け取るところに成立する往生もまた、現生において捉えられねばならない。

(5)現生往生はどのようにイメージされるか。大橋良介氏は、西谷啓治先生と吉田神社の参道を歩いていたとき、先生は「こうやって歩いている一歩一歩がそのまま西方十万億土の浄土への一歩一歩になっている」といわれたと語っている。この言葉で、現生往生の要が語られているともいいうる。現生往生とは、如来によって回向された往生の道を、現生において一歩一歩歩むことである。親鸞は、その道は信に始まり、究極において「臨終の一念の夕べ大般涅槃を超証する」に至るとして、その道を歩むことを「難思議往生」と捉えた。

では、地上の一歩がそのまま浄土への一歩であることを約束し、保証するものは何か。それは「本願の信」である。それゆえ親鸞は、難思議往生の道は本願の信に始まるとして、信において往生の道の起点に立つところに「即得往生・往不退転」の意義があると捉えたのである。そして、これが「即得往生」に親鸞が加えた「注釈」に対して、曽我が示したもうひとつの解釈である。

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