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近代の社会事業と神社神道(2/2ページ)

國學院大准教授 藤本頼生氏

2018年2月14日

加えて大正期には、日枝神社(東京)のように、境内が公園地となっていた例も多く見られたことから、一部の民社神職から、神社境内を小公園とし、幼稚園を設置して児童の遊戯遊歩場となすべきという神社境内開放論、公園敷地とその管理経営の方途が説かれていたことは、現在の待機児童の保育問題に通じるものであるといえよう。これに対して内務省神社局は、当時の佐上信一局長が児童の遊技・運動場、図書館のような形での境内開放は、一見適当なようで適当ではなく、あくまで神社は崇敬・祈願、奉告を通じて地域の精神的団結を図る地方自治の開発を図る場とし、自治思想の一端である公共的精神を養う場とする「神社中心主義」的な考え方を説いて境内開放論を一蹴している。

一方、東京市においては、大正12年9月に発生した関東大震災の復興問題との兼ね合いで、無料宿泊所や託児所などの設置をめぐって東京市社会局と東京府神職会との間にて教化公益に関する施設としての神社のあり方について交渉がなされ、神社をより社会救済の場として、施設を開放すべく調査、議論を進めていたことも知られている。なお、この時期は靖國神社境内や明治神宮外苑を罹災者救済のための仮設住宅の用地として開放した時期とも重なる。また、前出の吉田茂は、社会局長官や協調会常務理事を務め、労働争議問題にも尽力した人物であるが、明治末からの地方改良運動に伴って実施された神社整理施策を主導した水野錬太郎、井上友一両神社局長や、前出の佐上信一のような考え方とはやや異なり、農業振興という形で神社の性質に合致した形での地方改良、農村改良策を推し進めた。その施策の一つとして実施された新穀感謝祭が、現在も明治神宮や伊勢神宮にて開催されていることは、社会政策史の上でも興味深いものがある。

民間の宗教施設の社会的役割を問う

以上、わずかではあるが戦前期の神社・神職と社会事業の関わりの一端を述べた。神道、神社がそもそも宗教か、非宗教かという論議は、戦前からなされているところであり、その結論は別としても、社会事業という視点から近代以降の神社神道を見る場合、神社・神職が「神社中心主義」と呼ばれるような内務官僚が考えた地方自治の改善利用のための道徳的施設やその管理者、つまり、形式的な人民大衆とは無縁かつ無味乾燥なものではなく、少なからず社会救済のために尽力していた事実があることだけは指摘しておきたい。近年の国家神道に関わる論議では、皇室や教育をも絡めてシステム的に近代の神社神道を説こうとする向きも強いが、ぜひ地域の神社・神職が人々の救済のために尽力していた歴史的事実、経緯をも踏まえ議論いただければと思う。

「神道とは万人と仕合わせを分かちあうことに歓びを求める生き方のことである」とは、神社本庁総長を務めた櫻井勝之進の言であるが、英語で「福祉」を意味する(welfare)とは、まさに幸せを享受する意で、福も祉も幸せを意味する語である。無論、神社神道は祭りを通じて個々の地域の安寧を祈ることが中心であり、個人救済を主に説こうとするものでないことは言うまでもない。とはいえども、今後さらに進む少子高齢化社会のなかで神社・神職のなす福祉活動というものを考えるならば、神社神道にとって、そもそも「救いとは何か」という概念規定を近代の神社の社会事業の歩みを踏まえつつ、検討し直すべき時期にあるのかもしれない。

昨今、民間セクターに公共領域を担わせるような状況も増加するなかで、先の東日本大震災の発生時には、多くの神社・寺院が避難所としての役割を果たした。このことに象徴されるように、民間の宗教文化施設たる神社、寺院の社会的役割、あり方がまさに問われている。無論、政教分離との兼ね合いもあるが、より高次の公共概念から宗教の社会的貢献や公益性という観点に立って考えるならば、近代以降の神社のみならず、寺院を含めた宗教施設、宗教者の社会的活動の一つひとつに、現代の地域コミュニティの問題を解決するヒントが隠されているものと考えている。

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