ガザ無差別攻撃 武力信仰が支配する世界(7月2日付)
「膨大な軍事力でガザを無差別攻撃するイスラエル軍と、素手でがれきをどかし犠牲者を助け出そうとするガザ市民。この不釣り合いと不条理に怒りと心の痛みが募り、その日が広島原爆忌であることに思いをはせた」――国際NGO「国境なき医師団」の現場活動責任者、萩原健氏(58)は、昨年夏のパレスチナ自治区ガザでの活動を記録した『ガザ、戦下の人道医療援助』にそう記す。女性も子どもも見境なく強力な兵器で集団殺りくする。広島、長崎の被爆に通じるその非道に誰もが言葉を失う。
ガザの惨劇を顧みておきたい。犠牲者は5万7千人に迫り、3人に1人以上は子どもだ。イスラエルは救援物資の搬入を妨害し、全住民200万人余を食料不安、47万人を深刻な飢餓状態に追い込んでいるという。イスラエルが外国人記者のガザ取材を認めず、外国報道機関が情報源にする地元のジャーナリストが200人近く殺害され、飢餓と虐殺の全容は把握しきれない。だが、海外の民間援助団体スタッフの「胸が張り裂けそうだ」と悲痛な声がネット上に流れており、ある程度想像はつく。
イスラエルのネタニヤフ首相はハマスの指導者と共に国際刑事裁判所(ICC)に逮捕状を出されている。ガザ住民の飢餓を戦争手段に用いるなどが戦争犯罪と人道に対する犯罪に問われた。しかし、そもそも執拗なイスラエルのガザ攻撃は深刻な汚職疑惑で訴追されているネタニヤフ氏が裁判を長引かせ、また極右政党を政権につなぎ留め首相の地位を守るため、などの認識が広がっている。
その点で6月のイランへの先制攻撃も真意は不透明だ。ただ、イランの核開発阻止を主張し、米国を参戦させる狙いは実現した。ネタニヤフ氏は「まず力だ。それから平和だ」と語ったそうだが、武力で相手をねじ伏せた先の平和はどんな形か。深い疑念が湧く。
民族の垣根を越え、人々の尊厳を守り抜く法秩序の確立が求められる。ICCのネタニヤフ氏らへの逮捕状発付もその理念に基づくが、米国・トランプ大統領は逆にICCの判事らに制裁を科した。多くの国が制裁批判の声明を出したが、日本は参加していない。ICCの赤根智子所長は著書『戦争犯罪と闘う』で「ICCは存続の危機にあり、法の支配が消え、力が支配する世界に逆戻りしかねない」と日本の理解を訴えている。
ネタニヤフ氏の最終目的がガザ住民排除にあることは公然の秘密のようである。停戦してもそれは変わるまい。だが、今の世にそんな非情が許されるものだろうか。