いのちの言葉
今から60年前、墨染の衣一つで横浜港からユーラシア大陸を横断して単身フランスへ渡り、坐禅一筋の布教手段でヨーロッパ全土に一大禅ブームを巻き起こした僧がいる。曹洞宗の初代ヨーロッパ国際布教総監となる弟子丸泰仙氏である。弟子丸氏の没後半世紀近くを経て、弟子の博道氏から一冊の本が送られてきた◆『こころの文学――古今東西仏教的詩人の肖像』と題する私家版の冊子を開くと、心に響く珠玉の言葉、生命の滴と言うべき文字が散りばめられている◆在家禅僧・詩人を名乗る著者が影響を受けたという表現者や僧侶、ミュージシャンの9人が残した言葉に時代や国境を超えた「精神の系譜」を読み取り、そこから「いのちが通うほんとうの言葉に救われることがある」との確信を得ている◆9人とは道元、一休、良寛、宮沢賢治、高橋新吉、坂村真民、アメリカの自然詩人ゲーリー・スナイダー、カナダのシンガー・ソングライターで詩人のレナード・コーエン、そしてジョン・レノン。追録として第20回日本詩歌句随筆評論協会賞・奨励賞受賞作の「長渕剛小論」を収める◆著者はスナイダーの「宇宙は広い茫漠とした呼吸する肉声だ」という一文を引き、こうした全宇宙的なヴィジョン=声が自分の身体・言葉・心となって賢治らとつながっており、それは深淵で広大無辺な宇宙の自我でもあると書いている。(形山俊彦)