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湯之沢のミッションの記録 信仰共同体から学ぶべき

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2023年8月23日 09時24分

はじめて草津の聖バルナバ教会を訪ねたのは今から11年前だった。予習をせず訪問し、ここが大正期から昭和前期にかけてのハンセン病の私立施設では国内最大規模だったことを知った。同時に湯之沢と呼ばれる最大時八百余人の集落で信徒569人、のべ千人を超える受洗者を擁する信仰共同体であったことに驚いたのを覚えている。

このミッションの中心にいたのは50歳で来日し私財を投じて奉仕を行ったコンウォール・リー女史だ。約四半世紀という限定された期間とはいえ、キリスト教に基づいた医療、福祉、教育、自立支援等の機関を有する信仰共同体が現出しえたことに感銘と不思議さを覚えた。彼女を顕彰する企画展が隣の中之条町で開かれた5年前は、同教会とあわせて、昭和7年から15年にかけて信徒が移住することとなった国立療養所 栗生楽泉園も訪問し、その後、何度か足を運んだ。

コロナ禍になり、研究室の院生と感染症と宗教に関する論文を読み進め、今期はハンセン病に関して議論を行い、現地研究として同教会、楽泉園の社会交流会館(入所者の生活を知る資料館)、同園に隣接し、同園の懲罰目的で建設された重監房(現在はない)に関する資料館を訪問した。

社会交流会館でたまたま手にとった湯之沢の大師講に関する写真集に「湯之沢区時代における大師講の興りについて」という一文があり、引用出典の『風雪の紋―栗生楽泉園患者50年史』を入手。該当箇所前後には、湯之沢に真言宗豊山派の大師講があり、リー女史のミッションと対抗関係にあったこと、それと関連して草津新四国八十八箇所霊場が建立されたことが記されていた。

確かに同館に掲げられている湯之沢の地図にはミッション諸施設とは別に「宗教関係」という凡例があり、そこには先の大師講以外にもホーリネスや天理教の名前が記されている。これらの資料から、湯之沢集落の「席捲するかに見えた」「基督教興隆」(前掲書)とは違った宗教地図を垣間見たような気がした。前述のように、ミッションから楽泉園への移住に10年近くかかったのは、単に教会を離れがたいという心情だけではないようだ。草津の中心部から湯之沢への患者の強制的な移住。これに加えての施設収容への動揺・反発。集落の住民向けの宿泊・サービス業の既得権の問題もあったようだ。

しかしながら、湯之沢がミッション一色ではなく諸宗教が混在していたから、また信仰だけではなく利権も絡んでいたからといって、ミッションの意義はいっこうに薄れることはない。手ずから湯灌を行い「お母さま」と慕われたリー女史は楽泉園移行期に体調を崩し、一時帰国し、やがて草津を離れ、ミッション解散式の7カ月後に逝去する。彼女の存在がミッションの中核にあったのは疑いもない。

現地研究では院生と別れた後、同教会からミッションの諸施設のあった地域を歩いてみた。当時の面影はもちろん、ミッションを想起させる記念碑的なものはほとんどない。しかし病いをめぐる、この信仰共同体のあり方から、感染症に翻弄される我々は多くのことを学ぶに違いないだろう。

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