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宗教リテラシーの難しさ 宗教者自身も問われる認識

北海道大大学院教授 櫻井義秀氏

時事評論2023年9月27日 09時27分

お盆の翌週に北海道の美唄仏教会の依頼で「宗教と幸せ――統一教会問題から考える」と題した公開講演会を行った。34度の猛暑日ながら扇風機だけの会場に40人からの市民が集まった。講演者の私は1時間立って話して全身汗だく、聴衆もうちわを使いながら熱心に聴講してくれた。

30分の質疑応答で年配のご婦人が厳しいコメントをくださった。「統一教会などのようなカルト問題がなくならないのは、学者と宗教者が『まともな宗教』と『カルト』の線引きをしないからだ。しっかりやりなさい」

宗教リテラシーが大事だと言いながら、あなた方自身が宗教のこと分かってるんですか、と問題の本質に迫る意見だった。その時、私は①宗教とカルトの間にはグレーゾーンがあり、特定教団をカルトとみなすことで宗教側は、自分たちはまともだと安心してしまうことの方が怖い②戦前の日本では国体や天皇制を翼賛しない新宗教や類似宗教が弾圧され、現代中国では共産党政権が邪教や非公認宗教の線引きを行うことで信教の自由が侵害されている。といった理由をあげて、学問として線引きできない理由を説明した。

問題は、では、仏教がそれをやれるのかということである。9月7、8日に開催された日蓮宗中央教化研究会議のテーマは「旧統一教会をめぐる諸問題」であり、紀藤正樹弁護士と私が基調講演を務めた。そして、「マインドコントロール」「法人等不当寄付勧誘防止法の成立とその背景」「宗教2世について」「宗教リテラシー」の四つの分科会が設けられた。

私は「宗教リテラシーについて」と題して、①カルト問題に巻き込まれた被害者や関係者が問題を分析し、内省し、回復していくために必要なリテラシー②一般市民がカルト被害に遭わず、葬儀法要などの諸事や日常生活に対応していくために必要なリテラシー③宗教研究者や宗教者が問題の構造を解明し、社会の付託に応えていくために必要な宗教に関わる十分な知識と見識といった意味でのリテラシーの3層を説明した。

リテラシーとはそもそも知識を活用する力であり、智恵と言い換えた方がふさわしい。福沢諭吉の『福翁百話』39に、「所謂常識(コンモンセンス)を備へて平生の心掛け迂闊ならざれば世を渡ること甚だ易し」とある。

一般の方は、特定教団に関する知識や、カルト論、マインドコントロール論などの特殊な議論に精通している必要はない。しかしながら、宗教研究者や宗教者の場合、カルト問題に対応する場合、そして市民から「まともな宗教」と「カルト」の線引きという直球ど真ん中の質問を投げかけられた時には、自分の言葉でこう考えるという答えを用意しておくべきだろう。

マインドコントロールをするのがカルトであり、当教団は教化活動を専らとする以上カルトではあり得ない、では答えにならない。大半のカルト視される教団も教化を主張するからだ。宗教や信仰の在り方について深く考えた経験なしに自分の言葉で語るのは難しい。宗教者自身が問い直されているのがカルト問題なのである。

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