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「宗教」作るフランスの学校 アバヤ着用禁止を巡って

東京大教授 伊達聖伸氏

時事評論2023年10月18日 09時39分

NHKが「宗教二世」について特番を作るに当たりフランスの対セクト教育を取材しようとしたが、学校での撮影が許可されずに断念したとの話を聞いた。新学期の学校現場が、アバヤ着用禁止を受けてピリピリしていたのも一因らしい。

アバヤとはアラブ・イスラーム圏の伝統衣装で、女性が着用する長衣のこと。この時事評論でも取りあげたことがある(「『アバヤ』と『カミス』 再燃する宗教的衣装の問題」2022年12月9日付)。近年学校での着用件数増加が報告されており、現場の教員からは明確な基準を設けてほしいとの声があがっていた。

8月31日、ガブリエル・アタル教育大臣が、公立校でのアバヤとカミスの着用を禁じる業務通達を出した。カミスは男性用の長いチュニックである。フランスでは04年に公立校でのヴェール着用を禁じる法律が制定されたが、今回の業務通達はこの法律をきちんと適用するようにとの注意喚起の形で出されている。

実際、今回の措置を巡っては20年前を髣髴とさせる議論が起きている。あるいは、1989年のスカーフ事件以来、常に同じような議論が繰り返されてきたのかもしれない。曰く、イスラーム過激派が社会に浸透している、ヴェールは女性抑圧の象徴である、ライシテの原則は公的領域に宗教を持ち込むことを禁じている。曰く、いやムスリムと過激派を混同してはならない、女性は自分の意志でヴェールを被っている、ライシテは信教の自由を保障するものでもある、と。

だが、今回の禁止措置には20年前とは異なる点がある。それは、ヴェールは宗教的に意味付けることができるのに対し、アバヤはアラブ諸国で暮らすキリスト教徒も着るものであって、フランスのイスラーム諸団体はこれを宗教的衣装とは見なしていないのである。

04年段階では、イスラームのヴェールが「これ見よがしな宗教的標章」のリストに入っていた。新しい標章が出現した場合には禁止範囲を拡大する可能性も示唆されていた。22年の教育省通達には、「普通は宗教的所属を示すものではないが、生徒の振る舞いによっては明らかに間接的にそうなりうる」服装の禁止が盛り込まれた。

着用する当人には宗教的な意味合いがないのに、教員や学校側から見てそう解釈されるものが宗教的衣装になること。宗教学の重要な知見に、「宗教」概念は西洋近代の世俗によって作られたというものがあるが、今回のアバヤ禁止の措置から見えてくるのは、学校のライシテが「宗教」を作り出している様子である。

アバヤとカミスが禁じられているのに、後者があまり話題にならない点も興味深い。衣服や身体を管理しようとする社会の論理が、男性よりも女性に対して強く向けられていることが窺えるからである。

アバヤの着用件数増加が教員の不安を駆り立ててきたことは理解できる。3年前の10月にコレージュの教員が過激主義者に斬首された事件の記憶も新しい。ただし、アバヤの着用が問題視される学校は全体の4%にすぎないとも言われる。アバヤ着用は共和国の教育への反抗とはかぎらず、思春期特有のアイデンティティー追求の可能性も高い。

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