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コミューン志向の若者たち 問い返される宗教の共同体

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2023年11月22日 09時53分

昨年、本欄において福島県川内村で50年の歴史を有するコミューンの獏原人村について書いた。その後、コミューンの記録を集め、別の団体の訪問も実施した。その中で2回滞在しただけなので、あえて名称は書かないが、今世紀に入ってできた新しいコミューンを8月、11月に訪ねた。

コミューンに赴き、宗教学者だと自己紹介すると、「宗教」「学者」に引っかかる人がいる。「私たちは宗教ですか」「調べに来たのですか」と。しかし宗教の語源が「再び結びつける」だと説明すると、多くは「コミュニティー」という言葉や「何かを共有する共同体」と重ね合わせて理解してくれた。そして互いの、このコミューンを知ったり関わったりした経緯の話になる。

「前から宗教とコミュニティーって似ていると思っていた」と語る20代の女性は、エコビレッジの運営を目指してコミューンで1カ月スタッフをしていた。高校時代の挫折、屋久島でのエコビレッジとの出会い、病いの体験などを話してくれた。彼女の目指す「何かを共有する共同体」の「何か」とはアートで、それは狭い意味での芸術ではなく、料理や掃除など生活全般が入るという。そして寺院の作務や僧堂生活についての私の拙い話を興味深く聴いてくれた。

本願寺派で得度、大谷派の僧籍を持つという男性たちにも出会った。本願寺派の70代は、ヒッピー経験から最終的には自己への信仰と「お天道様が見ている」という倫理観を語ってくれた。大谷派の30代に見える料理や片付けが得意なコミューン1週間滞在者は、福祉に関わった経験から宗教の「救う/救われる」という構造を批判。能動態でも受動態でもない「中動態」、つまり「救われている」状態の重要性を説き、そのヒントがコミューンにありそうだと言う。

このコミューンはリーダーもルールもなく「お好きにどうぞ」をモットーにしていて、近年は「お金が消えた世界をつくる」を掲げて組織外に千人の支援者を獲得した。この主張に共鳴する10~30歳代がかくも多いのかと、かつて無所有を掲げて育児問題で社会的批判にさらされた日本最大のコミューン(ヤマギシ会)の事例を知っている者からすると驚きだった。

そしてそれ以上に、筆者が宗教研究者と名乗ったからかもしれないが、価値の源泉やつながりの原型としての宗教に、コミューン志向の比較的若い層が言及するとは思ってもいなかった。ただそれは現存する宗教団体への期待ではなく、むしろ過去にあって少し学ぶところはあるが、乗り越えるべきものという文脈でもあった。こうした志向性を宗教界が受け止めることができればとも感じた。

もちろん批判は宗教だけでなく教育にも向けられ、先の20代の女性は「学びの場では大人が楽しそうにしているのが大切」と語った。コミューンの子どもたちに紙芝居を見せにきた男性は「大人が笑うと子どもは、ここでは笑っていいのだと安心する」と言う。疲れた自分や同僚の顔を思い浮かべ、私たち教員は何を共有しようとし、どのような共同体を作ろうとしているのか、忸怩たる思いのコミューン滞在でもあった。

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