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加害者家族と宗教 被害・加害双方へ関わり方は

京都府立大教授 川瀬貴也氏

時事評論2024年2月28日 09時47分

先日、高橋徹『「オウム死刑囚 父の手記」と国家権力』(現代書館、2023)という書籍を読んだ。これは、2018年に死刑になった、元オウム真理教信者の井上嘉浩・元死刑囚の父親の手記を元に、その周りの支援者たち(真宗大谷派の知り合いも数名いた)の動きをまとめたドキュメントである。著者は元北陸朝日放送の記者で、支援者と井上氏との手紙のやりとり、この父親の手記を中心にドキュメンタリー番組を作成した人物でもある。

井上元死刑囚は逮捕後、オウムを脱会し、ずっと悔恨の気持ちを持ったまま、「教祖」とかつての仲間たちとほぼ同時に死刑に処された。それを見守るしかなかった両親の苦悩は想像に余りある。井上元死刑囚の父親は「自分が家庭を顧みないような人間だったから、息子がああなってしまった」という後悔をずっと持ち続けたようだ。その父親は、事件の起きた1995年から息子の死刑が執行されるまでの24年間、膨大な手記を書き続けた。

しかし、この本は単に井上元死刑囚とその家族に寄り添うだけではない。宗教ジャーナリストの藤田庄市さんの言葉を引いて、やはり井上嘉浩元死刑囚には宗教的エリート主義というか「独善的な修行者意識」がなかなか抜けなかったのではないか、という手厳しい指摘もされている。「独善的」とは、修行を続けることによって人間性も宗教的にも世間より高いところにいる意識のことである。

さて、実は僕は1992年秋の東大駒場祭の麻原彰晃の講演会をきっかけに、宗教学科の同期2人(当時学部3年生)と一緒に、駒場東大前のマンションにあった「アジト」に招待されたことがある(講演会の時、名前と電話番号を渡しておいて、「フィールドワークの練習」などとうそぶきながら訪問したのである。今から考えると、汗顔の至りだが)。

その時に我々の相手(というかオルグ)をしたのが井上元死刑囚だった。その時もらったオウムの本はまだ研究室の片隅に何冊かある。その時言われたことで印象に残っているのは「君たちがここに来た、というのも因縁」「そもそもここに来たこと自体、前世で修行した証」だとか、要するに「君たちは選ばれし人間なのだ」と、こっちの自尊心をくすぐるような口説き文句だった。

幸い、僕は元々疑り深い性格だったので、こういう言葉に引っかからなかったが、僕の二つ年上の井上元死刑囚の印象は脳裏に深く刻まれた。次に彼の顔と本名を見るのは、サリン事件の後になる(初対面の時、彼は「ホーリーネーム」の「アーナンダ」とだけ名乗っていて、本名は知らなかった)。

僕にとっては、30年ほど前の個人的体験を思い出させる本だったが、何よりも「犯罪加害者の家族(になる)」という、重い問題をも突きつける本だった。突然「犯罪被害者(の家族)」になることは何となく想像できても、「犯罪加害者の家族」になる、という想像力はなかなか持つことができないだろう。この書でも何人かの僧侶が紹介されているが、果たして宗教者は被害者、加害者双方にどのような関わり方ができるのだろうか。

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