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復興の願い込めた田植え踊り 祭りは再会の希望の象徴に

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2024年3月13日 09時18分

2月18日に浪江町請戸の苕野神社の再建報告祭にうかがった。東日本大震災後の荒涼とした原野で少女たちが舞う田植え踊りでご存じの方も多いかもしれない。津波で社殿が流失し、神職家族が犠牲になり、その後の原発事故で氏子が離散した地域の神社だ。

神事に続く境内や災害公営住宅での田植え踊りに同行させていただいたが、災害危険区域として人が住むことが許されず、各地から前夜に集まって踊りの合わせをしたという、その姿に、よそ者である筆者も深い感銘を覚えた。

福島県は震災後「ふくしま道徳教育資料集」全3巻を作成し、この田植え踊りは読み物や実際に中学校でのおはなし会でたびたび登場する。それは元気を失った生徒が田植え踊りの歌を通じて、周囲と打ち解け、前進していけるようになるというストーリーだ。

授業を受けた生徒は「友達と一緒に考えて答えを見つけられることができてすごくよかった」「『いっしょに歌いたい』という願いをかなえることにつながるといいな」としたため、中には「この物語を読んだことで私に新しい考えが生まれた」という生徒もいる。震災前は担い手不足であった田植え踊りが、なぜ人々の心を揺さぶるのだろうか。

田植え踊りは豊漁豊作を祈願する安波祭の中で披露される。しかし震災後はこうした祭りの性格は大きく変容し、悲しみとともに慰霊のシンボルになっていった。葬儀や法要がそうであるように慰霊は文字通りの死者の霊の慰めになるだけでなく、遺族の心身をも癒やすグリーフワークであることはよく指摘される。慰霊としての田植え踊りが人々を癒やす理由はそこにあるのだろう。

また田植え踊りは、離散から再会へという意味が付与されていった。報告祭でも「みんなばらばら」「踊り子が誰だか判らない」という離散の感覚を示す言葉が聞かれた。しかし祭りはそれを乗り越える再会のシンボルにもなっていて、これを報じる地元紙は「請戸出身の人たちを結ぶもの」「久しぶりに再会できた人もいてうれしかった」と再会の喜びの声を伝える。

氏神という世代を超えて存在する神社で決まった日に開催という空間的特殊性と時間的周期性、そこでの共有体験、加えて携帯電話等に保存されいつでも見ることのできる写真や動画へのアクセシビリティーや記憶の再現性が、今は離散していても、祭りを通して再会できるという約束を確からしいものとする。

田植え踊りは、子どもによる演舞という具体的な人員の確保、コロナ禍で演舞ができずとも「せめて唄だけでもささげたかった」という継承の願いの強化もあって、復興への勇気が具体的な活動に落とし込みやすかった。祭りの持つ優美で華やかな雰囲気、外部の者も巻き込む祝祭性、約束される来年の再会などが、被災のダメージからの立ち直りや復興の予感を感じさせることになったのだろう。

本コラムを担当して10年になる。今もそうだが、自然災害とそこでの宗教施設・行事の損失と復興の記事を目にすることが多くなったと実感している。単に昔からあるから再建ではなく、宗教文化が人々の生活とこころの復興に直結することを願う。

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