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フランス「安楽死法」の争点 厳格な条件で「死への援助」

東京大教授 伊達聖伸氏

時事評論2024年5月1日 10時00分

映画監督のジャン=リュック・ゴダールがスイスでの自殺幇助で人生に終止符を打ったのは2022年9月だった。不治の病に冒されていたわけではなかったが、体調悪化に苦しみ疲れ果てていたという。23年12月には咽頭癌に苦しむ歌手のフランソワーズ・アルディが、重病で苦しむ難病患者に「共感」を、と大統領へ公開書簡で訴えた。

マクロン大統領はこの問題に慎重な姿勢を見せてきたが、3月10日の記者会見で「死ぬことを手伝う」法律制定への意欲を語った。法案は4月10日の閣議を経て、5月27日から議会での審議がはじまる。

マクロンによれば「死への援助」は、患者当人の同意の有無を区別しない「安楽死」とも、当人が自由に無条件で死を選択できる「自殺幇助」とも異なり、終末期の患者が「厳格な条件」のもとで致死量を処方してもらえることを指す。

「厳格な条件」とは、完全な識別能力を持つ成人が、不治の病に冒され、沈静化できない痛みに苦しみ、生の終わりが短期的または中期的に予測されるとき、医師に依頼して合議で認められた場合のことを指す。このため、未成年や精神疾患・神経疾患・認知障害を持つ患者は対象外となる。

フランスはベネルクス3国やスイスと異なり、積極的安楽死や自殺幇助を長らく認めてこなかった。05年のレオネッティ法は、治癒の見込みがない患者に執拗な治療をしないこと、緩和ケア充実、患者の自律性尊重を原則とし、16年のクレス・レオネッティ法は一定の条件下での持続的な深い鎮静を容認している。「死への援助」は、これら現行法の規定とはどのような関係にあるのだろうか。

国務院は、死が差し迫っていなくても終末期になること、死を与える意図を持つ行為が初めて認められることの2点が現行法との大きな違いと指摘する。たしかに「短期的」は数時間や数日と考えられるが、「中期的」は曖昧である。これまでは、患者の事前指示書があれば、医師が合議に基づき治療中止を判断できたが、今回の法案では、要求を医師に伝えられない者は事前指示書があっても死への援助を要請できない。レオネッティは、多くの混乱と逸脱が起きるおそれがあると法案に批判的である。

条件を満たす者が死の選択へと条件づけられることがないように、「死への援助」は緩和ケアの拡充とセットとされているが、緩和ケアへのアクセス権には地域的・経済的格差があることも指摘されている。

宗教界の懸念は大きい。カトリック司教会議は死を引き起こす行為を認める法案に反対し、パリ大モスク管長は「生への援助」を目指すべきと緩和ケアの充実を訴える。プロテスタント連盟会長は死を与える行為は人間の倫理に大きな断絶をもたらすものと語り、フランス大ラビは現行法で十分との見解を示している。

終末期に関するフランスの従来の考え方は、積極的な死は与えず、医師の権威が強いが患者の権利も尊重するというカトリックとライシテの文化的影響を受けてきた。世論調査では、一定の条件下での「死への積極的援助」を7~8割のフランス人が賛成している。死を与える行為が法的に認められるのか注目される。

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