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香偈でつながる日本仏教 ― 「戒香の四句」は『行事鈔』の一文(2/2ページ)

融通念仏宗法覚寺住職 山田陽道氏

2016年9月16日

ところが、個々の語句をつぶさにデータベースで検索してみると、「解脱香」を除く全ての語が『六十華厳』において確認できる。そればかりか、個々の語句の引用部分は偈文のようにつなげていくこともできるように見受けられる。『六十華厳』では六波羅蜜の行を香と結び付けて説いているが、別の経典には「戒・定・慧・解脱・解脱知見」の五分法身を香と関連付けた「五分法身香」という考え方が説かれている。

後世にもよく用いられるこの「五分法身香」の思想が、『六十華厳』の教説と結び付いて出来上がったのが「戒香の四句」である。よって、道宣がこの四句を「華厳に云わく」と示したのは、『六十華厳』の思想と文言を基礎にして「五分法身香」の考え方を取り入れて成立した偈である、という意味に解釈できよう。

この「戒香の四句」には様々なバリエーションが見られるが、仏典史上では『行事鈔』にある前記の「戒香の四句」がオリジナルであることと、それが『六十華厳』起源であることをここで確認しておきたい。

「香偈」から「焼香偈」呼び方変化の過程

またこの「香偈」は日本で中世期に「焼香偈」とも呼ばれるようになった。大正蔵経では嘉暦3(1328)年、忍仙撰の『律宗行事目心鈔』に「香偈」→「戒香偈」→「焼香戒香偈」→「焼香偈」と順を追って呼び方が変化していった過程が「布薩」や「自恣」の次第を順に見ていくことで確認でき、非常に興味深い。

諸宗派で唱えられる「戒香定香解脱香」

日本の諸宗派で唱えられる偈文を調べてみると、南都の華厳宗や法相宗、禅宗に浄土宗から日蓮宗に及ぶ文書で「戒香の四句」またはそのバリエーションである「戒香定香解脱香」系の偈文を確認できたのでここに紹介したい。より適切な出典はあろうかと思うがその点は是非またご教示願いたい。

(一)華厳宗 『華厳宗在家勤行法則』「香讃」 戒香定香解脱香 光明雲臺徧法界 供養十方無量仏 見聞普薫証寂滅

(二)法相宗 『薬師寺勤行集』「焼香偈」 戒香定香解脱香 光明雲臺遍法界 供養十方無量仏 見聞普薫証寂滅

(三)天台宗 『台門行要抄』「焼香偈」 戒香定香解脱香 光明雲臺徧世界 供養十方三世仏 妙法蓮華大海衆

(四)臨済宗 『諸回向清規』「焼香偈」 戒香定香解脱香 光明雲臺遍世界 供養十方無量仏 見聞普薫証寂滅

(五)曹洞宗 (1)『瑩山清規』 戒香定香解脱香 光明雲臺遍法界 供養十方無量仏 見聞普薫証菩提 (2)『曹洞宗常用偈文集』「焼香偈」 戒香定香解脱香 光明雲臺徧法界 供養十方無量仏 供養十方無量法 供養十方無量僧 見聞普薫証寂滅

(六)浄土宗 『浄土苾蒭宝庫』「焼香偈」 戒香定香解脱香 光明雲臺徧法界 供養十方無量仏 見聞普熏証寂滅

(七)日蓮宗 『新編 日蓮宗信行要典』釈尊降誕会 「焼香偈」 戒香定香解脱香 光明雲台徧法界 供養十方無量仏 見聞普薫照寂滅

「香偈」に類する文としてはここに挙げた「戒香定香解脱香」系の偈文の他に、「願此香華雲」で始まる偈文も多く見られた。

「無上甚深微妙法」で始まる開経偈も諸宗派で唱えられることはよく知られているが、この「戒香の四句」に関わる偈文も日本仏教に広くいきわたっていたのである。今回、真言宗では確認できなかった(見落としただけかもしれない)が、『行事鈔』にある文を真言宗で唱えることに積極的に反対する理由はないであろう。

しかし、無戒を信条とする浄土真宗では「戒香の四句」を唱えることは難しいかもしれない。昭和の初めころまでは大谷派で、先の浄土宗と同じ『法事讃』にある「願我の四句」が声明では唱えられていたようであるが、今は唱えられなくなっている。いつか「戒香の四句」を仏教会の集まりなどでお唱えできる日が来ることを願うが、叶わぬ夢であろうか。

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