気候危機と食料危機 カネでは解決しない(6月6日付)
鎖国で自給自足だった江戸時代中期から幕末まで、日本の推定総人口は3千万人前後で推移した。これを日本の国土が養える人口の限界値とする指摘は以前からあるが、考えてみれば怖い話である。現代でも気候変動による食料危機や戦争などで輸入が長期間止まる事態はあり得る。食料安全保障が注目されるのはそのためだが、今のコメの価格高騰も、その文脈で議論を深めないと将来、国民が飢えに苦しむことになりかねない。
国連機関によると世界で最大7億8300万人が飢餓状態で、要因の一つは気候危機だ。だが、世界2位の温室効果ガス排出国・米国のトランプ政権は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」からの離脱表明や自然エネルギーへの資金拠出の停止、また石油、石炭の増産・消費拡大を促し、政府機関や大学の気候変動研究への助成金の打ち切りなどを次々強行する。
欧州でも気候変動に否定的で排外的な極右勢力が台頭し、米欧の動きを受け、途上国も脱炭素化を放棄することが懸念される。気候危機は新たな段階に立ち至ったようだが、もとよりそれは食料危機に直結し、食料の多くを輸入に依存する日本は深刻なことになる。
日本の食料自給率はカロリーベースで38%。1965年は73%だったが減反政策などで減った。コメ不足は経営の大規模化で解消できるという楽観論があるが、日本は田畑が中山間地域に多く、面積が狭小で大規模化は限界がある。農業者の平均年齢も68・7歳で後継者難に悩み、機械化でさらに人が減れば地域のコミュニティーを維持するのも難しくなるだろう。
日本の農業は化学肥料をほぼ全量輸入し、野菜はタネの自給率が10%、また家畜用飼料の自給率は26%で水産物も世界2位の輸入国だ。食料危機で各国が生き残りをかけサバイバルゲームを始めると、カネでそれらを買えない事態も想定される。その時は半年で日本は飢えるという。自給率を高めねばならないが、輸入食品を生ごみとして日々大量に廃棄する異常な食生活の見直しも迫られよう。
SDGsの目標の一つで、社会問題に向き合うエシカル(倫理的)消費の要求にも背いている。
一方、食料危機を念頭に国連食糧農業機関も有用と認める昆虫食には多少の抵抗感を禁じ得ない。
幸い日本には旬の食材を大切にし、工夫を重ねた精進料理の伝統がある(鳥居本幸代『精進料理と日本人』)。不殺生の心を育む理念は、気候危機をもたらす人の欲望と対極をなすものだ。その今日的な意義を広く伝えていきたいものである。