継続こそが力に 社会への発信のためにも(7月18日付)
相模原市緑区の知的障がい者福祉施設「津久井やまゆり園」で2016年7月26日、入所者19人が殺害され26人が重軽傷を負わされた事件から9年になるのを前に、今年も当日の「犠牲者を偲ぶ会」の案内が来た。長年勤務した元同園職員で、被害者らに寄り添ってきた太田顕さんらが惨劇を語り継ぐ活動をする「共に生きる社会を考える会」の主催だ。
前後して11日には、東日本大震災で児童と教職員合わせて84人が津波の犠牲となった宮城県石巻市立大川小の校舎遺構で毎月命日に読経を続ける地元の浄土宗大忍寺・福井孝幸住職から、懇ろな供養の模様がSNSで送られてきた。
どちらも発生から年月を経てメディアで取り上げられる機会も激減したが、続けていくことが遺族や当事者の心の支えであるのと同時に、ともに社会への重い問題提起であり続けている。
優生思想をむき出しにした犯人によるやまゆり園事件は、この社会の根底にある「役に立つかどうか」で人間を選別する風潮をあぶり出したが、その後も同様の差別や抑圧がなくならない。
「忘れず、後世に伝える」ために、やはり毎月命日に施設前での献花を呼びかけ、勉強会など様々な取り組みをしてきた太田さんは、「事件を防げず、入所者を守れなかった」痛恨の思いを抱き、それを自分ごとと捉えている。園前を通りかかるたびに合掌を続けてきた地元寺院の住職も「世の中全体でいのちが不公平に扱われている。もっと皆が声を上げなければいけないでしょう」と強調していた。
安全なはずの学校で、人的過失と裁判で認定された誘導ミスで子供たちのいのちが失われた大川小の事態も、数多くの遺族たちにいつまでも癒えない悲しみの傷を残す一方で、本当に実効性があるきめの細かい防災対策の重要性を指し示している。
かわいい「和顔地蔵」を現場に安置しての福井住職の供養行はもう600回を超えた。自身の出身母校でもあり、遺族に同窓生や先輩後輩も多い住職は「悲しんでいる人を支えるのが僧侶の役割」という。震災の記憶が風化しつつある中でも今なお行方不明の児童がおり、「体が動く限り、あの場に通い続けます」と語る住職の行いは世の中への発信でもある。
先般、社会的活動をする僧侶たちの集まりで代表者が述べた相通じる言葉が印象的だった。「取り組みの向こうにそれを必要とする方々がおられるのを想像することができ、そのために継続することこそが力です」と。