全ての存在に価値がある
高野山大 松長潤慶学長(62)
来年に創設140周年を迎える高野山大の学長に4月に就任した。「命とは何か、自分はなぜ生まれてきたかを学んでほしい。この疑問にきちんと答えてくれる場所は他にはない」と自負する。
高野山の補陀洛院住職で、祖父も父も高野山大教授だった。学長の後、高野山真言宗総本山金剛峯寺座主も務めた父の故有慶氏については「意識しないようにしている。やったことが広範囲過ぎるので。そもそも、誰かと比べないのが密教の教えです」と笑う。
次男ということもあり、本格的に密教研究を始めたのは高野山大大学院に入学した20代後半。密教文化研究所の海外調査に加わり、海外の密教遺跡を巡ったのがきっかけで、密教の源流を探る面白さに目覚めた。あまり注目されていなかったインドネシアの密教を丹念に調べ、日本に伝わる密教の源流が同国にある可能性を明らかにした。
大学はかつて在校生が千人を超えたが、今は300人ほど。「この大学は密教が中心。得意分野以外に手を広げてもうまくいかない」。定員割れの文学部教育学科は来年度以降の学生募集を停止し、現時点で唯一残る文学部密教学科に経営資源を集中させる考えだ。
密教学科は宗内子弟の入学が伸び悩む一方で、在家や社会人の入学は増加している。「同じ規格の人間をつくろうとする現代の教育制度に疑問を持ち、悩む子を受け入れるのも我々の大事な使命です」。全ての存在に価値があるとの弘法大師の哲学を通じて、あらゆる命に真摯に向き合える人材を育てることこそ大学の責務と強調する。
(岩本浩太郎)