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高野山大学開学前史 ― 学僧・名僧が輩出した「学山高野」(2/2ページ)

高野山大図書館課長 木下浩良氏

2016年12月9日

そこで政府は明治5(1872)年、教部省を設置して社寺行政全般を統括させた。全国の神官・僧侶の全てを無給の官吏の教導職として、国民教化にあたらせた。全国の教導職の教育・統括にあたったのが大教院で、東京の増上寺に置かれた。その分院として各府県に中教院、各地に小教院が置かれたのである。

高野山には、高野山小教院が同じ年に設けられた。設置の場所は穀屋跡(現在の西禅院前)で、後に興山寺跡(現在の金剛峯寺奥殿付近)へ移転している。高野山講学所は、高野山小教院が開校した時点で廃校になったものと推定される。

高野山小教院の特色として、明治政府の教育方針に応えながら、真言宗独自の宗団組織に小教院の教育制度を組み込んでいる点が注目される。

僧侶希望者は全国の小教院に入学して、普通学・専門学を勉強し試験合格の後に、得度をした。つまり、小教院入学が僧侶となる必須の条件であった。高野山小教院の学課は9級から1級までの9段階に分かれ、各級の試験合格者のみが上級へ行けた。9級から7級を下等、6級から4級を中等、3級から1級を上等とした。学費は、真言宗寺院の子弟であれば、寝具・食器の他は不要であった。注目される点は、入学者は僧侶に限定したものでなく、広く一般からの入学も募っていることである。ただし、一般からの入学者は学費を必要とした。

全国の真言宗下の小教院の学生は学業を修了後に灌頂を終えて、必ず高野山に登り交衆しなければならなかった。真言宗の小教院は各国に置かれたが、高野山の小教院が中心的存在であったことが指摘される。学習内容は、皇学・釈学・漢学・洋学の4種に大別された。

下等・中等では毎月試験が行われた。下等修了者は、管長より許牒が下されて下等寺院(高野山の中・下寺院及び地方の「平ら寺院」)の住職となれた。中等修了者は、上等寺院(高野山の上分寺院及び地方の本寺・触頭寺院)の住職になれた。また、上等修了者に対しては卒業後も、皇学・漢学・洋学を一層熟練するように戒めたのであった。

この高野山小教院で注目されることは、すでに図書館の前身が存在したことが挙げられる。図書係員を司籍と称した。これは今日の司書のことで、書籍の購入・点検と、貸出・返却を受け付けた。

高野山大学林

そして明治10(1877)年、高野山小教院は高野山大学林と改称して開校した。明治政府による全国の神官・僧侶全体を統轄する大教院制度は数年で崩壊して、各宗別の大教院が設けられた。真言宗大教院は東京芝の真福寺に設けられて、真言宗内における学林は高野山・智山・長谷寺の三つに分立することになる。高野山には古義真言宗全体の学校である高野山大学林が設けられたのであった。

同学林の教育課程は初級から9級の9段階とした。初級・2級を終えて帰住する者を住学衆と称し、さらに上級へ進学する者を進学衆と称した。初級から3級を下等、4級から6級を中等、7級から9級を上等として、この差をもって各級の修了者は大中小寺院の住職となった。学生は年間4回の試験があり、その学習結果によって昇級した。地方寺院といっても、初級卒業以上でなければ寺院住職にはなれなかった。また、各県下に置かれた真言宗中教院における内試験の結果により、入学希望者は高野山より等級至当の許可状を授与されて、その等級に応じた公試験を受けた。学生全員が初級から入学するとは限らなかった。

また、高野山大学林附属中学林(高野山高校の前身)ができたのは、明治13(1880)年であった。初級以下の等外生収容のために設置された。それ以前は、大学林内に等外生授業所があった。

以上、明治時代における真言宗教師は学習を重んじた学歴社会であり、教育制度の上に宗団が成り立っていた様がうかがえる。このことは、この後の古義大学林でもより明らかなのであった。

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