PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
第22回「涙骨賞」を募集
PR
第22回「涙骨賞」を募集

浄土宗の現状と今後の対応 ― 過疎地寺院問題≪3≫(2/2ページ)

佛教大教授 大谷栄一氏

2019年10月4日

つまり、檀家数の減少はもちろんのこと、兼務寺院・無住寺院の増加も寺院活動の衰退を招くことにつながり、ひいては寺院の存続にも関わる(ちなみに、浄土宗では04年に寺院問題検討委員会が設置され、兼務寺院問題に対する対応が図られてきた)。

「寺離れ」の危険性

報告書では、聞き取り調査の結果も掲載されている。今後の檀家数の推移について、「近所の檀家はほぼ高齢者世帯で、息子は県外に在住。今の高齢者が亡くなったら、檀家が急減する可能性がある」との声が紹介されている。まさに、「寺離れ」の危険性が寺院側から表明されていることがわかるだろう。

今後、世帯数が減少することで、絶家などによる「檀家の自然減」は食い止める術はないが、転出等による「檀家の社会減」については、遠方の檀家に積極的に働きかけ、離檀を防ぐ努力が必要である、と報告書は述べる。たとえば、島根県西部の石見教区は全51カ寺がすべて過疎地域にあるが、その働きかけを行っている。07年から教区を挙げて「離郷檀信徒」のためのお盆「東京法要」を始め、現在では若い僧侶も出仕し、東京で世代を超えた僧侶と檀信徒の交流が実現している(『中外日報』18年2月2日)。

宗勢調査の結果

「檀家の社会減」への対応として、若者世代への働きかけも必須であろう。

ここで、第7回浄土宗宗勢調査の結果に目を転じてみたい(17年実施、7010カ寺対象、回収率96・9%)。檀家に対する法要や行事の案内、寺報の送付などの働きかけの有無についての質問がある。そのうち、「寺院近隣に住んでいる檀家で、独立して住んでいる子ども世代の家の場合」への回答は、「まったく連絡を取っていない」35・0%、「すべての檀家に連絡している」21・8%、「一部の檀家に連絡している」33・1%、「その他」10・1%という結果になっている(『浄土宗宗報』平成30年12月号)。

すなわち、独立して住んでいる子ども世代には「まったく連絡を取っていない」割合が一番高いのである。檀家の子ども世代の「寺離れ」を垣間見ることができる。寺院の活動に若者世代の関わりが薄いことはよく指摘されることだが、遠方の檀家への働きかけに加え、(場合によっては遠方に)独立して住む檀家の子ども世代への働きかけも(過疎地か否かにかかわらず)重要であろう。

評判呼ぶ子育て支援

寺檀関係の維持・継続が寺院存続の必須条件であることはいうまでもない。しかし、寺院は檀信徒のためだけのものではないだろう。すなわち、地域に寺を開くことの重要性が問われる。

ここで、滋賀県東近江市のある浄土宗寺院の取り組みを紹介したい。関正見師は1995年に田園地帯の50軒弱の集落にある正福寺に住職として着任した。

関師は、夫婦で2003年からサラナ親子教室(浄土宗総本山知恩院のおてつぎ運動の一環)による子育て支援に取り組み始めた。最初6組で始まったが、しだいに評判を呼び、数年で本堂は満杯になり、ひと月に何回も教室を開くようになった。そのことで、寺院や寺院を取り巻く地域の雰囲気も変わり、檀家の枠を超えて、広く地域の住民が寺の門をくぐるようになった。「風通し」がよくなったという。

過疎化、少子化に悩む地域で(檀家との信頼関係をベースに)教室=寺院を起点とした人間関係の広がりが作られたのである(関「子育て支援―サラナ親子教室の試み」大谷編『ともに生きる仏教』ちくま新書、19年)。

第7回浄土宗宗勢調査では、「過去一〇年間に檀信徒以外の方に地域社会の行事、催し物などに寺院を開放したことがありますか」との質問に、「ある」が39・6%に対して、「ない」が57・6%を数えた。関師の取り組みと「地域社会の行事、催し物」は異なるが、檀信徒以外との人間関係の構築は、地域や寺院の活性化には欠かせないであろう。

今後、過疎地寺院問題の深まりを避けられない以上、さまざまな場所に住む多世代の檀家、檀信徒以外の地域住民の「寺への関わり」を増やすこと。「お寺の持続可能な未来」のためにさらなる工夫と挑戦が求められている。

「中日仏学会議」レポート 菅野博史氏12月24日

日本と中国の学者10人が研究発表 「第9回中日仏学会議」が11月1、2日に、北京の中国人民大学で開催された。人民大学には、中国の教育部に認められた100の研究基地の一つで…

宗教の公共性と倫理的責任 溪英俊氏12月12日

宗教への信頼ゆらぎと問い直し 2022年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題が社会的注目を集めた。オウム真理教地下鉄サリ…

“世界の記憶”増上寺三大蔵と福田行誡 近藤修正氏11月28日

増上寺三大蔵と『縮刷大蔵経』 2025年4月、浄土宗大本山増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書(以下、増上寺三大蔵)がユネスコ「世界の記憶」に登録された。 三大蔵とは思渓版…

宗教界歳末回顧 節目となる年、節目とする年(12月24日付)

社説12月25日

地球環境危機 宗教の叡智発信を(12月19日付)

社説12月23日

信仰と生活文化こそ糧 パレスチナの訴え(12月17日付)

社説12月19日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加