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浄土宗の御詠歌(2/2ページ)

佛教大宗教文化ミュージアム館長 小野田俊蔵氏

2018年5月11日

庶民の間にひろまった各種の巡礼の流行は西国巡礼や観音霊場めぐりが主であったが、この流行は浄土宗にも波及し、順阿霊沢によって『圓光大師御遺跡二十五箇所案内記』が著わされ、二十五霊場巡りが寶暦12(1762)年の4月には開始されている。札所には石柱が建てられ、上人ゆかりの御詠歌額をかかげて、巡拝者は真摯に霊場を巡拝しその御詠歌を唱えるようになった。そもそも「念仏の声する所が我が遺跡なり」という法然上人ご自身の言葉に基づいて霊跡を特定しないことを標榜してきた念仏集団も庶民の巡礼への熱望に答えざるを得なくなったのである。因みに現代の浄土宗の御詠歌(吉水流詠唱)もこの二十五霊場の巡礼歌を基としている。白隠禅師の弟子で白隠の龍澤寺を継いだ圓慈東嶺和尚も西国三十三所の御詠歌に註記を施した『西国巡礼歌圖解』を寛政8(1796)年に著している。このように宗派を超えて多くの僧侶が一般に親しみのある巡礼歌の歌詞を媒介として仏教を布教しようと努力したことが分かる。

節に関しては念仏の弘通に大きな功績を残した空也上人が自作の和歌に節や調子をつけて唄ったものが巡礼歌の節のもとになったとの俗説があり、その後時宗の第四世の呑海がその節を完成させて「呑海節」なるものが出来て大いに流行したという話もある。天台宗には漢文経典読誦の伝統である天台声明の旋律を援用した和讃の「叡山流」がある。これには舞踊がとり入れられていた。

御詠歌奉納の位置づけ

世間一般では御詠歌は「乞食巡礼が御報謝を求め呼びかけながら唄った巡礼歌」という暗いイメージや側面もあった。それを正統な「仏教音楽」と評価しなおす活動を各詠唱流派は行わねばならなかった。「正調」あるいは「正統」という言葉を散りばめながら御詠歌の起源を読経の技法である声明と大胆に解釈しなおし「在家声明としての御詠歌」という概念を広めたのである。

多くの自然発生的な講が「流儀」へと再編され、やがてその流れは真言宗内他派や各宗へと伝播していく。東寺流、三宝院流、曹洞宗の梅花流(詠讃歌)、臨済宗の花園流など多くの正調の流儀が誕生していくのである。

僧侶の経典読誦と同等の格式を聞く者に抱かせるために演出上の様々な工夫が施されている。

まず、カタログ化である。札所や巡礼地に特定の和歌を結びつけることは近世から行われていたが、「唱えたてまつる○○番の御詠歌……」というようにその詠唱行為自体に格式を持たせていったのである。漢文でつづられている経典とは違い、和語で詠まれた歌は難解な文章語に親しみのない一般市民にも近づき易い。

経典読誦あるいは真言や称名念仏と同等という位置づけは別の意味も持つ。追善回向に直結するのである。本来は讃歌であり釈教歌であった御詠歌は、難しい経文になじみにくかった民衆が、自分の言葉でほとけの徳を誉め称え、自らの深い信仰心を吐露するものであった。それが同時に死者の追善回向になるのであれば民衆にとってこんなうれしいことはない。

今日でも多くの地方で、西国三十三カ所や四国八十八カ所の御詠歌を唱えることでもって死者の霊の成仏への道の推進力になるとみなす信仰が残っている。新仏(にいぼとけ=あらた)ができると、四十九日の満中陰の日まで毎晩隣近所の同門の信者が霊前で御詠歌をあげる習慣を全国で確認することができるという。各札所の御詠歌をあげ、途中の何番目かの札所に詠歌の旅が到着すると死者のために休憩をし、また再度御詠歌による巡礼の旅に同行し続けるという。途中の難所にさしかかるとお茶を供えて死者の応援をするのだという。この一連の行為が追善回向になると信じられているのだ。

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