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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

宗教の公共性と倫理的責任(1/2ページ)

玉光神社宗教心理学研究所特別研究員・日本脱カルト協会理事 溪英俊氏

2025年12月12日 10時00分
たに・ひでとし氏=1983年、山口県生まれ。龍谷大大学院文学研究科博士課程(後期)真宗学専攻修了(博士〈文学〉)。2015~25年に浄土真宗本願寺派総合研究所研究員。現在龍谷大非常勤講師、中央仏教学院講師、玉光神社宗教心理学研究所特別研究員、日本脱カルト協会(JSCPR)理事。浄土真宗本願寺派僧侶。
宗教への信頼ゆらぎと問い直し

2022年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題が社会的注目を集めた。オウム真理教地下鉄サリン事件(1995年)以来、宗教教団が社会に深い衝撃を与えるたびに「宗教とは何か」「信仰と社会はいかに関わるか」という根源的な問いが繰り返し突きつけられてきた。

今回の事件では、多額の献金、宗教二世、脱会支援、政教分離、信教の自由など、さまざまな論点が噴出した。これらの課題は、宗教の公共性と倫理的責任の在り方を根底から問い直すものである。宗教が社会において信頼を回復し得るかどうかは、外部からの監視や規制ではなく、宗教教団が自らをいかに律しうるか、すなわち自浄作用の有無にかかっている。

戦後日本の宗教法人制度は、宗教の自由と自立を保障する一方で、「自己統治の責任」を各教団に委ねてきた。外的な強制ではなく、宗教が内部から自己抑制の倫理を形成できるか。これは、現代の宗教教団にとって避けて通れない課題である。

伝統宗教に潜む「静かなカルト性」

一般に「カルト」という語は新宗教や過激な集団を想起させるが、より広く捉えれば、カルトとは「特定の言説や権威によって信者の思考や行動を過度に拘束する構造」を持つ組織である。

その意味では、暴力や強制を伴わずとも、批判や異論を封じ、組織の安定や形式維持を優先する宗教教団にも、カルト的傾向が潜みうる。筆者はこれを「静かなカルト性」と呼びたい。

静かなカルト性は、伝統宗教が有する「継承」「安定」「和合」といった価値の中に生じやすい。たとえば、「伝統を守る」ことが「変化を拒む理由」となり、祖師の言葉が絶対化され、検討や批判が封じられることがある。また、教団内部において信仰の深浅によって序列化され、異論は信仰心の浅さと見做される空気が生じる場合もある。

こうした構造は、外見上は穏当でも、信者の自発性や批判的思考を奪い、宗教を「形を保つ体系」へと変質させる。伝統宗教が成熟を保つためには、この静かなカルト性を自覚し、「伝統を疑う」多様性を内に育む必要がある。すなわち、伝統を守ることと伝統に思考停止することを峻別することこそが、宗教の倫理的成熟を支える基盤となる。

カルト化抑制の二つの軸

宗教教団のカルト化を防ぐための論理は、大きく二つの軸に分けて考えることができる。

第一はガバナンス、財務の透明性、意思決定の公開性といった制度的・組織的抑制、第二は教義や信仰実践に内在する思想的・倫理的抑制である。前者は、外部からの検証や説明責任を可能にする仕組みとして機能し、後者は宗教思想そのものに備わる「自己批判の論理」であり、信仰を権威や支配の構造から守る内的メカニズムである。

宗教の本質が人間の内面に関わる以上、制度面の整備だけで健全性を保つことは難しい。したがって、教義そのものがどのように自らを律する力を内包しうるのか、つまり自浄の論理を掘り下げることが重要となる。

浄土真宗に見る抑制の論理① 『歎異抄』

宗教教団における自浄の論理について、拙稿では、浄土真宗を例に考えてみたい。

『歎異抄』には、「弟子一人ももたず候ふ」という親鸞の言葉がある。ここには救いにあずかる者の平等性が、端的に示されている。

また、真宗大谷派僧侶でカルト問題に取り組む平野喜之は、カルト的支配を特徴づける「恐怖・搾取・拘束」の三要素に対して、それらを打ち消す三つの契機を備える教義が『歎異抄』に示されていると論じた(『白道』第十九号)。

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