《宗教とAI③》AI時代に深める対機説法(1/2ページ)
國學院大名誉教授 井上順孝氏
2024年度に某大学で講義していたとき、学生が提出するレポートにAIを使っている割合が急に増えたのを感じた。宗教について初めて教わった学生が書くような内容でないものがあったり、文章はもっともらしいが、とんでもない誤りが複数綴られたものを見つけたりした。
明らかにAIを用いていると感じたので、学生たちに警告を発した。そのようなものは専門家が見ればすぐ分かる。そうしたレポートは採点対象としないと言明した。またAIに頼る癖がつくと、自分で判断する力が弱くなると強調した。以後、AI利用と思われるものは激減したが、なくなりはしなかった。
ここで問題にしなければならないのは、教員が出した課題に対して学生が自ら考えることをせず、AIに回答をアウトソーシングすることである。逆のこともすでに起こっているかもしれない。教員がどのような講義の組み立てにしたらいいか、あるいはどんな課題を出したらいいかを、AIに尋ねたりすることである。
これと類似のことは宗教界でも起こりそうである。
宗教家側が、信者に対する講話、説教、説経の類を考えるにあたって、AIにどんな話がいいかを尋ねるかもしれない。信者側が自分たちの宗教の正しい理解は何かを、AIを使って調べるかもしれない。自分が接している宗教家の言ったことが正しいのか、AIで確かめようとする信者が出るかもしれない。
教育の場でAI利用の広まりにどう対処するかは、実はもう喫緊の問題である。宗教界も似たような問題と直面する例が増えてくると予想される。
AIがもたらす利点はおそらく無数にある。それについてはAIを開発する人たちが考え出すし、使い方次第でとても便利である。個人的にはポスターの図案などに画像生成AIを使っている。宗教界も、事務処理の類は他の組織と変わることはない。何をAIに任せたらいいかについては、社会的動向を参考して対応していくことになろう。
AIの開発者たちは、AIに、光と影の部分があることは十分気づいていて、AIの弱点も指摘している。AIの負の面や弱点を考えながらどう利用するかは、個々の分野が取り組むべき課題である。軍事面や経済面などであると、国家的課題になるから、テクノロジー開発者たちも、負の面での問題点にはかなり配慮するに違いない。だが宗教や宗教文化にAIが浸透したとき、どのような問題が生じ得るかを考える余裕はあまりないだろう。
それに加え、宗教に関する事柄は、軍事や経済などに比べ、何が利点で何が弱点かの指標自体がきわめて曖昧である。神の存在や仏の教えを信じる人が増えることを利点と考える人が多数派を占めるとは限らない。文化に関わることに、汎用性のある解決策はほぼ見つからない。
AIが宗教界にもたらす負の面や弱点については、宗教家や宗教を研究している人たちが中心になって考えるしかない。そのためには、AIがやっていること、やれることへの基本的な知識は、どうしても必要になる。その上で、AIに丸投げ、あるいはアウトソーシングしてはいけないことは何かを考えていくのが、今の時点ではとりわけ必要である。
《宗教とAI⑦》AI時代の宗教者 新たな役目 石井祐晃氏10月9日
本年7月21日、オープンAI社は、サイバー能力の評価中だったAIモデルが、インターネットから隔離されていた開発環境から抜け出し、他社にサイバー攻撃を行う事故が起きたと発表…
《宗教とAI⑥》「コンテキスト」育てる責任 佐々木斎生氏10月2日
AIのひらめき 今年の5月、数学の世界で、AIをめぐる大きな出来事がありました。数学者ポール・エルデシュが80年ほど前に提起した「単位距離予想」が、AIの見つけた反例によ…
「ホモ・ミューチュアル」を提唱 北村敏泰氏9月24日
支え合いに通底する原理 先般の2度目の熊本地震も含めた災害被災者支援、貧困問題や福祉、医療などの現場でのケアや寄り添いを幅広く考察し、あるいは実際の現場で働く宗教者たちに…





