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《宗教とAI③》AI時代に深める対機説法(2/2ページ)

國學院大名誉教授 井上順孝氏

2026年2月27日 09時20分
劣る信頼性 留意が必要

AIの仕組みは、私自身を含め多くの人は、正確には把握し得ない。深層学習とかトランスフォーマーと呼ばれているものに、どんなプログラムが組み込まれているかは、理解が困難だからである。企業秘密になっている部分もある。しかもどんどん改良されていくから、その時々の使い方を学ぶだけで精一杯である。

それでもおさえておくべきことがある。AIは想像できないほど膨大なデータを扱っているが、質の面ではたとえば公共図書館や大学図書館に所蔵されている書籍に蓄えられた情報に比べると、信頼性ではかなり劣る。

収集された情報の源には、SNS上のものさえ含まれている。書籍から得られる情報にも、捏造されたもの、興味本位のものは含まれているが、編集者の目を通すことで、大半は正確さや倫理面で一定の基準を満たしていると考えられる。また図書館の蔵書になる段階でも、ある程度の淘汰がなされる。

SNSを多くの人が利用するようになって、そこで流される情報の質は著しく劣化した。フェイク、炎上といったキーワードがそれを示している。書籍でも怪しげな本が売れるという現象はあった。ところがSNS時代は、フェイクや陰謀論などとんでもない情報が、エコーチェンバーによって、局所的に支配的になったりする。そしてそうした情報も、AIはデータとして扱ったりする。X(旧ツイッター)やインスタグラム、ユーチューブにアップされた情報などを、データとして取り込んだりするからである。

またハルシネーションと呼ばれる事実に基づかない誤った情報を、AIはもっともらしく流すことがある。AIは膨大なデータからプログラムに従い妥当な回答を出せば任務は完了である。こうしたことを、マイクロソフトAI部門のCEOであるムスタファ・スレイマン氏は、「知ったかぶりAI」と表現している。

対機説法が持つ奥の深さ

宗教家と信者たちはさまざまな交流の場を持つ。一般的な説法・講話の類や、対面での疑問や悩みに関する応答の類もある。AIについて最も真剣に考えるべきは、対面状況での深刻な悩みについて向かい合うときの利用法である。それを考えるに際し、対機説法の持つ奥の深さを取り上げたい。対機説法は、分かりやすくは「人を見て法を説け」だと説明される。だが「人を見て」とは、具体的にはどういうことか。

対機説法を深掘りしていくならば、この「人」には、その「人自身」だけでなく、その「人の周りにあるもの」つまり環境を含むと考えなければならない。「その人が置かれた境遇」が関わる。「その人にとって目前の宗教家がどういう存在か」も含まれてくる。

2010年代に認知宗教学と取り組むようになって、確信を深めたことがある。宗教的行動と呼ばれているものには、理性では説明できないことが数多くある。それゆえ、宗教は科学や理性で解き明かすことはできないもの、という方向に説明を導く人もいる。だが、説明できないのは人間の心の複雑さであって、科学と対置させる必要はない。認知科学やニューロサイエンスの知見を参照しながら、共に考えるべきである。

相手の「心」の状態読み取る

心と向き合うには、無意識的な働きや、情動・感情が果たす役割に対し、より深く細かな注意を注がなければならない。これはAIがきわめて不得手な部分である。AIは緻密なアルゴリズムや確率計算で動いているからである。

仏教経典、聖書、あるいは論語の全文をデータベースにしてしまい、AIに答えさせるというやり方は面白い場合もあろう。だが宗教家がそれを毎日の信者への対応に用いたら手抜きである。AIはプロンプトとして言語情報を入力しないと答えてくれない。信者と向かい合ってときに交わされる情報は、意識されなくても五感すべてを使っている。

信者と真剣に向き合おうとする宗教家は、言葉だけでなくさまざまに相手の心の状態を読み取ろうとするだろう。クロスモダリティとして知られる現象がある。五感で得られた知覚情報は、無意識のうちに相互参照、相互影響をして、情報の統合へと向かう。

対面状況では、無意識のうちに互いがそうやっている。この人間の能力と奥深さに十分気づくことが、宗教の場ではとても大事になる。AIが今後どう展開していくかは予測がつかない。現段階では、対機説法の深みと、人間同士の向かい合いによって「生成される何か」についてあらためて考えていくことが欠かせない。

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