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中外日報社「宗教文化講座」

『安芸国神名帳』奉唱の再興 神仏合同の世界平和祈願祭を契機として(1/2ページ)

速谷神社権禰宜 瀨戸一樹氏

2026年4月3日 11時12分
せと・かずき氏=皇學館大文学部神道学科卒業、佛教大大学院文学研究科歴史学専攻修士課程修了。専門は神道史、日本中世史。広島県青年神職会創立70周年記念誌『写真でみる広島の神社』(南々社、2024年)の編集委員長を務める。25年から同会会長。
はじめに

令和7(2025)年、終戦80年の節目の年を迎えた。今なお世界では戦禍で苦しむ人々が後を絶たない。同年12月、被爆地・広島で活動する広島県青年神職会・広島密教青年会(密青会)が更なる恒久平和を祈って、初代・神武天皇を主祭神とし、安芸国総社を合祀する多家神社(広島県府中町)で世界平和祈願祭を斎行し、その祭典で約150年ぶりに『安芸国神名帳』奉唱の儀式を再興した。

『安芸国神名帳』とは国内神名帳の一つ。国内神名帳は国司が国内の神社を管理するための神社台帳で国衙に具備されていた。現在、二十数カ国のものが伝わる。国司は国内の有力神社に幣帛や神宝を捧げ、時には神階を朝廷に申請し、任国の平安・五穀豊穣を神々に祈ったのである。神仏習合が盛んだった中世には国内神名帳が一宮や総社などの神宮寺の修正会や修二会で奉唱されるようになった。僧侶が国内神名帳を奉唱し、神名帳に記載される神々が法会の「場」に勧請され、国家安泰や地域の安寧が祈られたのだ。

明治維新の神仏分離で国内神名帳の奉唱は姿を消していった。ただ現在でも群馬県の一之宮貫前神社の鹿占神事で神職が上野国神名帳を唱え、岡山県の高野山真言宗西大寺の西大寺会陽で備前国神名帳を僧侶が奉唱している。

一宮豊田神社の修正会と『安芸国神名帳』

古代の『延喜神名式』に記される安芸国の神社が3座(社)であるのに対して、安芸国神名帳には193座もの神名が郡ごとに記されており、古代から中世の安芸国に存在していた神祇(神社)を知り得る貴重な史料である。ちなみに「厳島」や「八幡」を称する神名は見当たらない。

安芸国神名帳は楽音寺(広島県三原市、現真言宗御室派)に伝来し、実際に神名帳を法会で唱えていたことを示す史料も伝わる。楽音寺文書の年月日未詳「一宮修正会役人注文」に「神明(ママ)帳 細田定智」とあり、また楽音寺と関わりが深い蟇沼寺(三原市、現真言宗御室派東禅寺)の文書の正和3(1314)年5月18日「一宮修正会勤行所作人注文」に「一、神明(ママ)帳一人 明道房」とある。文政8(1825)年に編纂された広島藩の地誌『芸藩通志』では神名帳の註釈として「楽音寺に所蔵なり、伝へ云、当郡に、一宮あり、楽音寺、其別当にて、祭式に、国内神名を誦むことあり」、そして神名帳の奥書にも「為法楽荘厳摠神分般若心経」とあることから、近世まで旧豊田郡の一宮と称された豊田神社(三原市。御祭神は安芸国一宮厳島神社と同じ宗像三女神)の修正会において楽音寺の僧侶らが神名帳を奉唱していたことが裏付けられる。

芸藩通志本と松浦本

現在、楽音寺本の原本は失われたが、芸藩通志に収録されて広く知られるようになった。ただ残念なことに収録時点で既に神名帳の冒頭は腐食して欠落していた。通志での註釈には「帳首の紙腐爛して、文字一二行を佚す」、また「紙きれて」とある。神名帳では神々は郡ごとに列挙されるが、筆頭郡の沼田郡の前にも39座の神々(以下、「帳首の神々」)が記載される。冒頭が欠損しているため位置付けが分からず、もっと多くの神々が記されていた可能性もあった。芸藩通志の編者は、帳首の神々39座を国府の神々(総社の祭神)と判断したらしく、「国府凡四十前」(二位五前とある個所に二位の神祇が4座しか記されていないため)と加筆した。そのため、帳首の神々は長らく総社の祭神と考えられてきた。

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