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中世の『日本書紀』研究を担った学匠たち(1/2ページ)

弘前大准教授 原克昭氏

2020年1月14日 10時50分
はら・かつあき氏=1973年、愛知県生まれ。早稲田大大学院文学研究科東洋哲学専攻修了、博士(文学)。弘前大人文社会科学部准教授。専門は日本宗教史・宗教文化史。主な業績に著書『中世日本紀論考―註釈の思想史』(法藏館)、編著『宗教文芸の言説と環境』(シリーズ日本文学の展望を拓く3、笠間書院)、共編著『習合神道』(続神道大系・論説編、神道大系編纂会)など。
■中世にみる『日本書紀』の位相

養老4年(720)の撰進より、奈良・平安期には、もっぱら『日本書紀』は公家たちが講義し注釈し和歌を詠み合う「日本紀講筵」という公的行事の一環としてあった。それが、平安末期から中世にかけて、神仏習合思潮とも相俟って新たな宗教テキストとして立ち現れてくる。中世は神話の変容と再生が隆盛した時代であり、『日本書紀』原典の神話叙述から逸脱し、多岐にわたる解釈が施された。その過程で、モチーフに改編が加えられ、神々の意匠も変貌を遂げてゆく。そのなかに、積極的に『日本書紀』の書写・伝授に携わり、注釈研究の主たる担い手として、神話言説や秘儀秘説を産み出した知識層がいた。ほかならぬ、寺院で仏教学研鑽を積んだ諸宗の学匠たちであった。

そのような中世の『日本書紀』研究のありかたを考えるとき、大きく二つの場面が想定される。ひとつは一対一対応による〈伝授〉という場面、もうひとつは複数者を対象とした〈講釈〉という場面である。『日本書紀』が秘すべき神道書としての性質を帯びていた中世にあって、前者の〈伝授〉が『日本書紀』にまつわる秘儀秘説を醸成し宗教言説の形成を促す土壌となったとみるならば、後者の〈講釈〉は秘説の披露と家学の確立・公認の場であったといえる。

そして、この〈伝授〉と〈講釈〉という表裏的な学問的営為を通して、『日本書紀』は書写・伝授・注釈され、神話言説と儀礼空間をきりむすぶ宗教テキストとして再生と展開を遂げてゆくところとなる。

■学匠たちによる『日本書紀』研究の諸相

まず鎌倉期には、金沢称名寺の釼阿が『日本書紀』から諸事象にまつわる記事を抜書・抄録し事書化した『日本紀私鈔』を著す。釼阿は、嘉元4年(1306)丹鶴本奥書や嘉暦3年(1328)彰考館本識語など、『日本書紀』の書写・伝授歴を有していた。まさに書写・伝授と注釈活動は不可分な関係にあったことが分かる。

南北朝期に成立した『日本書紀私見聞』には巻末に『麗気記抄』が附載され、また室町期の比叡山良遍は『日本書紀』と『麗気記』双方の講述伝授を手懸けるなど、『日本書紀』が両部神道の代表的典籍『麗気記』と連動して書写・伝授・注釈された形跡が窺える。

なお、『日本書紀私見聞』は伊勢内宮・荒木田家出身の学僧周縁(道祥・春瑜)で書写・伝授されたほか、日光天海蔵本・願教寺本が伝わり、東国寺院圏でも伝領された注釈文献である。常陸の浄土僧・了誉聖冏は、本書を参照して『日本書紀私鈔』『麗気記私抄』『麗気記拾遺抄』『麗気記神図画私鈔』の諸注釈を著している。このように学匠たちによる書写・伝授・注釈活動は、中世寺院の宗教文化圏ネットワークを実態的かつ動態的に透視させてくれる。

そして、室町中期以降には、「日本紀の家」と称された吉田神道(吉田家・清原家)の『日本書紀』講釈に桃源瑞仙をはじめとする五山禅僧たちが立ち会い、手ずから『日本書紀』を紐解くなど、こぞって神代史に関心を寄せ始めた。なかには、講釈の薫陶を受けた学匠自身が、改めて講釈者として登壇する場面も見受けられる。

清原家の学問を修得した日蓮宗頂妙寺の仏心院日珖もその一人。法華神道三大部の一つ『神道同一鹹味抄』は、天正18年(1590)頂妙寺における拝殿建立に際して執行された、日珖自身による『日本書紀』講釈をもとにしたものである。

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