PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン
PR
2024宗教文化講座

オウムの暴走を許したのは誰か―地下鉄サリン事件から25年③(2/2ページ)

弁護士 中村裕二氏

2020年10月2日 10時40分

私は、長野県警がKY氏の物置から押収した薬品類に関する押収品目録を見たことがある。警察が作成した押収品目録には、薬品類について化学式がいくつか記載されていたが、明らかな誤記が確認できた。警察は化学薬品のこともサリンのこともよく知らなかったのである。KY氏の代理人弁護士が、警察に対し、「押収した化学薬品ではサリンは製造できない」と説明しても、長野県警の幹部は聞く耳を持たなかった。ある幹部が捜査にあたる現場の警察官に対し、「KYが犯人でないと思う者はこの部屋から出て行け」と言ったという話も漏れ伝わっている。

警察は、知識も情報も無い、未知の化学兵器サリンの前に全くの無力であった。警察の前に立ちはだかった「化学兵器の壁」が、オウムへの捜査の大きな障壁となった。

また、警察幹部は、何よりも警察組織のメンツを重んじたため、一刻も早くKY氏を犯人に仕立て上げることに血道を上げ、オウムが完全に捜査対象から外れてしまった。警察の前に立ちはだかった「組織の壁」が、オウムへの捜査の大きな障害となった。

5 結局、警察の前に立ちはだかった①宗教団体の壁②管轄の壁③化学兵器の壁④組織の壁、それら四つの大きな壁の前に、警察はオウムの暴走を止めることができず、世界を震撼させた地下鉄サリン事件を許すこととなる。

第3 オウムの暴走を許したのははたして警察だけの責任か

1 オウム事件の警察の捜査に深刻な問題があったことは前述したとおり明らかである。しかし、オウムの暴走を許したのは警察だけの責任ではない。

国や地方自治体、マスコミ、メディア、宗教学者、知識人、著名人、大学など学校、弁護士会など、様々な分野の組織や人物についても、オウムの暴走を許した責任があるのではないかと、私は今でも自問自答している。

2 国は、オウム事件後、サリン等の製造を禁止する法律を作り、また警察が管轄の壁を破り広域捜査ができるように警察法の改正を行ったが、テロ事件の再発を防止し、被害者や遺族を迅速に支援できる体制を整えることができたのか。

東京都は、89年8月オウムに宗教法人格を付与した当事者として被害者や遺族、国民に対し説明責任を十分果たしてきたのか。

3 マスコミは、警察発表を鵜呑みにして、松本サリン事件で被疑者扱いを受けたKY氏について、えん罪報道を続けてしまった責任を今でも痛感しているのであろうか。

メディアや宗教学者、知識人、著名人たちは、麻原彰晃やオウムの若者たちを面白おかしく取り上げて、オウムの暴走に力を貸したのではないか。

4 大学など学校は、カルト教団の危険性を学生たちに教えていなかったばかりか、学生たちが校内で勧誘されることを漫然と放置していなかったか。

弁護士会は、オウムの顧問弁護士がサリンを用いて滝本太郎弁護士を甲府地方裁判所構内で殺害しようとした事件で、同顧問弁護士をなぜ懲戒することができなかったのか。

第4 オウム真理教の暴走を許したのは誰か

1 私は、オウムの暴走を許したのは、私たちの心の中にある四つの壁ではないかと思う。四つの壁に囲まれた、私たちの中にある「見て見ぬふりをする心」、それこそがオウムの暴走を許した要因であると考えている。

2 宗教のことは関わりたくない、化学のことは苦手、自分の管轄外のことには触れたくない、会社や学校など組織に迷惑をかけたくない――オウムに対する私たち一人ひとりの心の動きがオウムの暴走を許したのではないか。

3 第2、第3のオウムが出てきたとき、その暴走を止めることができるかどうかは、ひとえに私たち一人ひとりの心の働きにかかっていると思う。

「浄土宗の中に聖道門と浄土門がある」 田代俊孝氏3月18日

浄土宗開宗850年をむかえて、「浄土宗」の意味を改めて考えてみたい。近時、本紙にも「宗」について興味深い論考が載せられている。 中世において、宗とは今日のような宗派や教団…

文化財の保護と活用 大原嘉豊氏3月8日

筆者は京都国立博物館で仏画を担当する研究員である。京博は、奇しくも日本の文化財保護行政の画期となった古社寺保存法制定の1897(明治30)年に開館している。廃仏毀釈で疲弊…

語り継がれるもうひとつの神武天皇陵 外池昇氏2月29日

神武天皇陵3カ所 江戸時代において神武天皇陵とされた地が3カ所あったことは、すでによく知られている。つまり、元禄の修陵で幕府によって神武天皇陵とされ文久の修陵でその管理を…

アカデミー賞2作品 核問題への深い洞察必要(4月17日付)

社説4月19日

人生の学び 大事なのは体験で得た知恵(4月12日付)

社説4月17日

震災犠牲者名の慰霊碑 一人一人の命見つめる(4月10日付)

社説4月12日
このエントリーをはてなブックマークに追加