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2024宗教文化講座

陰陽道研究の現在(2/2ページ)

活水女子大教授 細井浩志氏

摂南大准教授 赤澤春彦氏

2021年5月13日 11時12分

一方で室町時代はいわゆる民間陰陽師の活動が顕著になる時代でもある。鎌倉期以降、公家・武家社会に広く浸透していった陰陽道は、この時代になると在地社会や民衆も用いる普遍的なものとなり、陰陽道に基づく知識や呪術が広がってゆく。ただし、この時、その担い手となったのは必ずしも陰陽師と呼ばれる存在だけではなかった。この時期は修験、願人、御師、声聞師、舞々といった様々な宗教者が列島各地に拡散してゆく時代であるが、陰陽道的知もこうした雑多な宗教者によって様々な形に変えられながら人々の生活の中に溶け込んでゆくのである。

近世陰陽道研究は――各時代の中でも特に――国家制度や社会状況に接続させた展開が見られる。これが高埜利彦による「本所」論の成果を受け、身分的周縁論や宗教社会史研究といった潮流を牽引してきた。中世から見られた陰陽道的知を用いる雑多な宗教者たちは近世になると職分の原理に基づき、土御門家によって支配・編成されるようになるが、近世の民間宗教者群の中において陰陽師が一定の位置を占めたことは近世の特徴である。

こうした近世の陰陽道組織の形成・変容・解体の過程についても明らかになっている。陰陽道は明治3(1870)年の天社神道禁止令によって公的には廃止されることになるが、とはいえ、人々の生活の中には現代にも様々な形で陰陽道の片影が残されている。こうした近代以降の陰陽道の在り方についても今後、焦点が当てられるだろう。

また、人々と生活に根ざした陰陽道・陰陽師の姿という点では民俗学による成果が蓄積されている。陰陽道は民俗宗教や民俗信仰の重要な要素として、暦やまじないを介して生活次元に浸透し変容してきたが、こうした知識や技術は近接する仏教や修験道、神祇信仰の中でも意識されながら相互に利用し合いつつ伝播していった。中世に成立した著名な暦注書である『簠簋内伝』などの書誌に関する研究、中世に起源を持つ神楽に色濃く残る陰陽道的要素、いざなぎ流など陰陽道に近接する民俗信仰の在り方など、様々な対象を素材に研究の深化が進んでいる。

こうした研究の進展を踏まえてその達成と今後の課題を示したのが、現在刊行中の『新陰陽道叢書』全5巻(名著出版、20~21年)で、各巻の総論に詳細が解説されている。また旧叢書が既発表論文の再録を主としたのに対して、新叢書の多くが新稿なのも研究者数の増加を反映する。そして旧叢書では晴明が登場した古代こそが陰陽道の最盛期だと考えられ論文数も多かったが、実は陰陽道は中世・近世の方が社会への影響力を強め発展していたことが知られるようになった。

よって新叢書では、第一巻(古代)はもちろんだが、第二巻(中世)・第三巻(近世)が飛躍的に充実した内容となっており、民俗が第四巻として独立しているのも特徴である。また注目されるのは陰陽道史=古代史という図式のもととなった晴明像の変遷である。平安時代の一有力陰陽師であった晴明は、時代とともに神格化の度を強め、現在イメージされるクールな魔術師「安倍晴明」へと変貌する。第五巻(特論)はこの変貌の過程を跡づけることで陰陽道の歴史的変遷を再確認し、併せてその他の諸問題との関わりも理解できる構成になっている。

さらに陰陽道を研究するための様々な環境も整えられてきている。研究者による単著や『新陰陽道叢書』などの編著はもちろんであるが、安倍氏の子孫土御門家の家司を務めた若杉家に残された史料群が京都府立京都学・歴彩館のホームページで閲覧が可能となった。このほか東京大学史料編纂所や宮内庁書陵部が所蔵する土御門家の文書群や大将軍八神社の皆川家文書(土御門家家司皆川家の史料群)、近年では国立歴史民俗博物館が所蔵する「吉川家文書」(奈良の暦師吉川家に伝わった史料群)の研究が進んでいる。こうした史料の活用により陰陽道研究の裾野はさらに広がってゆくことが期待される。

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