PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座 第22回「涙骨賞」を募集

宗教2世問題を考える(2/2ページ)

天理大おやさと研究所教授 金子昭氏

2022年9月6日 09時53分

新宗教も既成教団化することで、伝統仏教と同じように「家の宗教」化する傾向にある。新宗教では、戦後に成立した教団でも宗教3世以上、幕末維新期の成立になる教団では宗教4世~5世以上を経過している。伝統仏教の寺院や檀信徒に至っては、宗教10世以上のところも少なくない。その意味で信仰継承の問題は普遍的である。現代の急速な社会変化の中での「家の宗教」化であるがゆえに、新宗教教団の場合は問題がより先鋭化されやすいだけで、同じことは伝統仏教にも言えるのである。

多くの宗教教団では、寺院・教会子弟をいかに育成して後継させるか、また檀信徒家庭での信仰の世代間継承をどうするか、真摯に取り組んできた。しかし、その取り組みは上から目線のきらいがあった。

教団付置研究所懇話会でも何度か年次大会テーマに挙げられたが、いずれも育成する教師の立場からのもので、育成される側への配慮の視点は希薄だったというのが正直な印象である。だが、その中で形成された経験知があるはずだ。試行錯誤や失敗例も含め、そうした経験知を炙り出していくと、有益な指針を打ち出すことができるだろう。

信仰継承と教団再生のために

浄土真宗本願寺派では最近、「伝える伝道」から「伝わる伝道」への本質的転換を掲げたプロジェクトを開始した。天理教にも「集める理」より「集まる理」が大切という言葉がある。良き教えであれば、自ずと伝わり、そこに人々も寄り集うものだ。伝統仏教、新宗教も、ともに発想の転換を図らなくてはならない。私は宗教2世問題に注目して4点指摘し、合わせて提案もしたいと思う。

第1に、教団の指導者や教師の側が檀信徒の家庭に対して何の気なしに言う言葉、例えば家族全員で信仰しましょう、家族揃って参拝しましょうという一言がある。言われた親が仮にうまく子供に信仰を伝えられないと、自責感情に襲われたり、子供に対してきつく当たったりする。親から言われた子供のほうも、親との関係の中で心理的葛藤へと追い込まれる。

子供にとっては家庭が生活の全てだから、親孝行などと絡められて説かれると、出口の無い絶望感に陥りやすい。指導的立場にある者は、何の気なしにそういう科白が、時として極めて無神経に響くことにまず気付くべきだ。

第2に、信仰継承というのは本来、信仰する親の後ろ姿を見て自発的に行われるものであるが、本人の自発性・主体性を伴わない信仰継承の強要は時としてスピリチュアルアビューズ行為となり得る。その結果、家族の団欒どころか、家庭の機能不全をもたらし、子供が成長しても心に葛藤や絶望感を抱え、対人関係に様々な支障をきたすことになってしまう。

これはまさにアダルトチルドレンの症状であり、悩める宗教2世はまさにアダルトチルドレンの姿そのものである。宗教教団が次世代への伝道のために家庭を信仰的に囲い込もうとする時、そのような危うさが生じてしまう。この危うさの自覚こそ、宗教者の側に常に求められるのである。

第3に、宗教者が改めて確認すべきは神仏に対する正しい姿勢である。神仏は真理の原液であり、それはどんな薬が毒にもなるのと同じ意味で、処方を間違えれば生身の人間に対して救いの反対のものをもたらし得る。信仰熱心な親が「毒親」となってしまわないためにも、教団の指導的立場の者は、親が信仰という名の下に子供を支配し、家庭を管理するということになっていないか、たえず留意していかなくてはならない。

第4に、宗教者は絶対的存在ではない。生身の人間として自らも悩み苦しみ、自他の救いを求める存在である。宗教者の務めは、良き媒介者として、悩める人々の内側からの声を神仏へと聞き届けるように仕向けることにある。この声が神仏に届いたと自覚できた時に、人は神仏との本当の関係を持てるようになる。

教団の指導者層、また教師や親は、良かれと思って子供を神仏の方に向けさせるよう、つい無理強いしてしまいがちだ。でも、そこには神仏の威を借りたおごりはないだろうか。実のところ、神仏はもう初めから人間の方を向いて存在しているのである。

《「批判仏教」を総括する➁》現象主義的縁起説と基体説 末木文美士氏9月26日

「縁起説」対「基体説」 思うに、松本史朗氏が『縁起と空――如来蔵思想批判』(大蔵出版、1989)で提示した縁起説対基体説という対立図式はきわめて適切なもので、時代を経ても…

《「批判仏教」を総括する➀》「批判仏教」論争の本質を問う 石井公成氏9月19日

かつて「批判仏教」と呼ばれる思想運動が駒澤大学を起点に日本仏教界に大きな衝撃を与えた。あれから数十年。今、改めて「批判仏教」とは何だったのかを問い直す。学識者7人による連…

【戦後80年】被団協ノーベル平和賞受賞の歴史的意義 武田龍精氏9月10日

核兵器は人類の虚妄である 核兵器がもたらす全人類破滅は、われわれが己れ自身の生老病死を思惟する時、直面しなければならない個人の希望・理想・抱負・人生設計などの終りであると…

大事なのは関係性 被災地での支援活動で(10月1日付)

社説10月2日

スマホの使い方 ルール作りを共に考える(9月26日付)

社説9月30日

無知故のマナー違反 備えによりて憂いを減らす(9月19日付)

社説9月25日
  • お知らせ
  • 「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
    長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
  • 論過去一覧
  • 中外日報採用情報
  • 中外日報購読のご案内
  • 時代を生きる 宗教を語る
  • 自費出版のご案内
  • 紙面保存版
  • エンディングへの備え―
  • 新規購読紹介キャンペーン
  • 広告掲載のご案内
  • 中外日報お問い合わせ
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加