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プーチンのロシアと宗教(1/2ページ)

精神病理学者 野田正彰氏

2023年1月5日 10時20分
のだ・まさあき氏=1944年、高知県生まれ。北海道大医学部卒。神戸市外国語大、京都造形芸術大、京都女子大、関西学院大教授を歴任。精神科医、評論家。『コンピュータ新人類の研究』(大宅壮一ノンフィクション賞)、『喪の途上にて』(講談社ノンフィクション賞)、『国家に病む人びと―精神病理学者が見た北朝鮮、バルト、ガリシアほか』など著書多数。

ソヴィエト連邦(ソ連)解体から30年、今や独裁者になりつつあるプーチンがロシア連邦の大統領になって20年。ロシアとプーチンそれぞれが以前の社会から受け継いできた思想・制度とは何だろうか。

1917年11月の「十月革命」でソヴィエト政府樹立を宣言したロシア共産党は、外国からの軍事侵攻と国内での反革命軍と長く戦わねばならず、いわゆる政党であるよりも軍事組織として強化されていった、「戦時共産主義」と呼ばれる体制であり、外国に対しては軍隊の最大強化、国内では国家保安省(後に国家保安委員会KGB)や内務省による監視と粛清を行った。軍事化された政府、軍事化された政党は、経済政策において戦時態勢的な、上からの指令による計画経済へ凝り固まっていった。

ソ連共産党がロシア帝国の最大の悪と考えたのは、帝制(ロマノフ王朝と地主貴族と農奴によって成り立つ)であり、その文化イデオロギーである東方キリスト教(ロシア正教)であった。工業化が遅れ農業しかなかったロシアで、農民の徹底した貧農化(平等化)を進めるためにコルホーズ(集団農場)が計画実行されていった。未発達だった工業は、軍備のための重工業のみが優先されていった。

この様な戦時共産主義体制では、どのような共産主義社会を創るのか、討論は許されない。戦争時は敵に勝つことのみに総てが集中され、いかに終戦させるか、この議論は許容されなくなる。戦争が長引き、外国の反革命勢力や国内の階級の敵なるものがどこに居るのか、分からなくなっても、戦時共産主義体制では敵の存在を求め続ける。敵がいなくなった、平和な社会を創ろう、と考え始めれば戦時共産主義でなくなるからだ。こうしてソ連共産党は収容所群島を造り続け、スターリン批判の後は批判者の精神病者化(精神医学の政治的乱用)を発明していったのだった。

思想においては、ソ連共産党は宗教をレーニン主義の敵とみなした。彼らは「宗教は阿片だ」と比喩したが、トビリシ(グルジア)の神学校を中退したスターリンが支配したソ連共産主義も阿片によく似ていたといえよう。一旦服用すると中毒となり、社会が破綻するまで止められなかったのである。

ソ連共産党は宗教なるものを全否定したのだが、ここで宗教と考えていたのはロシア正教だった。ロシア帝国、農奴制と皇帝、ロシアの文化に浸透し精神的支えになっているロシア正教だった。彼らはロシア正教を禁止し、神父を追放処刑し、教会を没収解体していった。だが永く続いた文化の表に現象するものは破壊できても、その無形の思想を破壊するのは難しい。新しい制度や造形を創れば創るほど、どこかで前の文化が原型となって模倣されてしまう。廃仏毀釈の後の国家神道の形成も似ている。

ロシア正教を全否定したロシア共産党だったが、否定の先にあったのはロシア正教の影絵をたどる道であった。90年代のロシア、ウクライナ、バルト三国など、ソ連解体から諸宗教への勃興へ、私は調査を続けながら、ロシア共産主義がいかに宗教(ロシア正教)に似ているか、考えていた。それは4点にまとめられる。

第一には、選民としての労働者・貧農階級を取り出し、この世を天国にすると約束したこと。

第二には、党という大教団を作り、各地に委員会という教会を作り、荘厳な祭典(メーデー、戦勝記念日など)を繰り返したこと。

第三に、異端の粛清と正統イデオロギーの確定がセットになって反復されたこと。

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