PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座 第22回「涙骨賞」を募集

プーチンのロシアと宗教(1/2ページ)

精神病理学者 野田正彰氏

2023年1月5日 10時20分
のだ・まさあき氏=1944年、高知県生まれ。北海道大医学部卒。神戸市外国語大、京都造形芸術大、京都女子大、関西学院大教授を歴任。精神科医、評論家。『コンピュータ新人類の研究』(大宅壮一ノンフィクション賞)、『喪の途上にて』(講談社ノンフィクション賞)、『国家に病む人びと―精神病理学者が見た北朝鮮、バルト、ガリシアほか』など著書多数。

ソヴィエト連邦(ソ連)解体から30年、今や独裁者になりつつあるプーチンがロシア連邦の大統領になって20年。ロシアとプーチンそれぞれが以前の社会から受け継いできた思想・制度とは何だろうか。

1917年11月の「十月革命」でソヴィエト政府樹立を宣言したロシア共産党は、外国からの軍事侵攻と国内での反革命軍と長く戦わねばならず、いわゆる政党であるよりも軍事組織として強化されていった、「戦時共産主義」と呼ばれる体制であり、外国に対しては軍隊の最大強化、国内では国家保安省(後に国家保安委員会KGB)や内務省による監視と粛清を行った。軍事化された政府、軍事化された政党は、経済政策において戦時態勢的な、上からの指令による計画経済へ凝り固まっていった。

ソ連共産党がロシア帝国の最大の悪と考えたのは、帝制(ロマノフ王朝と地主貴族と農奴によって成り立つ)であり、その文化イデオロギーである東方キリスト教(ロシア正教)であった。工業化が遅れ農業しかなかったロシアで、農民の徹底した貧農化(平等化)を進めるためにコルホーズ(集団農場)が計画実行されていった。未発達だった工業は、軍備のための重工業のみが優先されていった。

この様な戦時共産主義体制では、どのような共産主義社会を創るのか、討論は許されない。戦争時は敵に勝つことのみに総てが集中され、いかに終戦させるか、この議論は許容されなくなる。戦争が長引き、外国の反革命勢力や国内の階級の敵なるものがどこに居るのか、分からなくなっても、戦時共産主義体制では敵の存在を求め続ける。敵がいなくなった、平和な社会を創ろう、と考え始めれば戦時共産主義でなくなるからだ。こうしてソ連共産党は収容所群島を造り続け、スターリン批判の後は批判者の精神病者化(精神医学の政治的乱用)を発明していったのだった。

思想においては、ソ連共産党は宗教をレーニン主義の敵とみなした。彼らは「宗教は阿片だ」と比喩したが、トビリシ(グルジア)の神学校を中退したスターリンが支配したソ連共産主義も阿片によく似ていたといえよう。一旦服用すると中毒となり、社会が破綻するまで止められなかったのである。

ソ連共産党は宗教なるものを全否定したのだが、ここで宗教と考えていたのはロシア正教だった。ロシア帝国、農奴制と皇帝、ロシアの文化に浸透し精神的支えになっているロシア正教だった。彼らはロシア正教を禁止し、神父を追放処刑し、教会を没収解体していった。だが永く続いた文化の表に現象するものは破壊できても、その無形の思想を破壊するのは難しい。新しい制度や造形を創れば創るほど、どこかで前の文化が原型となって模倣されてしまう。廃仏毀釈の後の国家神道の形成も似ている。

ロシア正教を全否定したロシア共産党だったが、否定の先にあったのはロシア正教の影絵をたどる道であった。90年代のロシア、ウクライナ、バルト三国など、ソ連解体から諸宗教への勃興へ、私は調査を続けながら、ロシア共産主義がいかに宗教(ロシア正教)に似ているか、考えていた。それは4点にまとめられる。

第一には、選民としての労働者・貧農階級を取り出し、この世を天国にすると約束したこと。

第二には、党という大教団を作り、各地に委員会という教会を作り、荘厳な祭典(メーデー、戦勝記念日など)を繰り返したこと。

第三に、異端の粛清と正統イデオロギーの確定がセットになって反復されたこと。

【戦後80年】被団協ノーベル平和賞受賞の歴史的意義 武田龍精氏9月10日

核兵器は人類の虚妄である 核兵器がもたらす全人類破滅は、われわれが己れ自身の生老病死を思惟する時、直面しなければならない個人の希望・理想・抱負・人生設計などの終りであると…

心肺蘇生の成功率を高めるために 森俊英氏8月7日

死戦期呼吸とは 近年、大学の新入生全員への心肺蘇生講習や、保育者および小・中・高校の教職者への心肺蘇生講習が盛んに実施されるようになりました。さらには、死戦期呼吸に関する…

同志社大所蔵「二条家即位灌頂文書」を読む 石野浩司氏7月17日

(一)即位灌頂の創始と摂関家 史実としての即位灌頂は、大嘗会「神膳供進作法」にまつわる五摂家の競合のなかで、弘安11(1288)年、二条師忠と天台座主道玄、文保元(131…

AIとの付き合い方 人間相互の共振の大切さ(9月12日付)

社説9月17日

「追悼の日」の意義 将来の安心安全目指し(9月10日付)

社説9月12日

非道が過ぎるイスラエル パレスチナ国承認を早く(9月5日付)

社説9月10日
このエントリーをはてなブックマークに追加