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第22回「涙骨賞」を募集
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「中日仏学会議」レポート(2/2ページ)

創価大大学院教授 菅野博史氏

2025年12月24日 09時02分

(1)僧肇は、小乗を抑制し大乗を宣揚する『維摩経』の立場に忠実な解釈をしているのに対して、道生は、声聞が辞退するのは、維摩・如来・諸弟子が互いに暗黙の了解のもとで協力し合う演出であり、舎利弗が辞退するのも、浅い方法によって衆生を教化するためであるにすぎないと解釈し、道生が『維摩経』の立場を意図的に変えたとする。

(2)「必ずしも是の坐を宴坐と為さざるなり」の分析を通じて、僧肇が舎利弗の禅修形式の合理性を否定しているのに対して、道生は舎利弗の禅修形式の正当性を肯定し、声聞の聖者の権威を擁護するとともに、維摩詰による舎利弗への批判の合理性をも認めており、極めて円融的な経典解釈のスタイルを体現したとする。

(3)僧肇は大乗の宴坐の高妙さと卓越性を示しているけれども、この境地にいかにして至るかという実践の問題については十分に答えていない。これに対して、道生は、禅修が段階的に発展するという時間性を強調し、初学者の立場に立って、禅修の実践面を重視したとする。

向氏の論文は、中国哲学史にとって重要な概念である「理」について、道生の果たした功績を、理と空有、理と惑悟、理と三乗、理と頓漸の四つの視点から考察したものであり、日本の学者にも少なからざる研究成果があるが、改めて道生の理の研究の重要性に気づかされた。

「入不二法門」に関する筆者の解釈

最後に、筆者自身の論文について述べる。

『維摩経』の入不二法門品のテーマは、いかにして不二法門に入るかという問題について、まず31人の菩薩たちが、二とは何かをさまざまに規定したうえで、その二を否定・超越することが不二法門に入ることであると答えた。これに対して、文殊は一切法について、いかなる言語表現も不可能であるとすることが入不二法門であると述べた。これは、入不二法門が言語で説くことができないということについて、ほかならぬ言語によって説いたことになる。最後に、文殊が維摩に対して、不二法門に入るとはどういうことか質問するが、維摩は沈黙を守って一言も答えなかった。これは後に「維摩の一黙」といわれるが、文殊によって賛嘆された。これがいわゆる入不二法門三階説である。要点を述べる。

1.羅什は文殊の語と維摩の黙とは、帰着する根本は同一であるが、外にあらわれた形(迹)としては維摩の黙が文殊の語よりも精妙であることを認めた。また、31人の菩薩の多様な説は、衆生の多様な迷いを捨てさせることにとって有効であると見なしており、単に第2段階の文殊、第3段階の維摩を宣揚するための手段と見なすだけではなく、衆生に対する現実的な役割を認めている。

2.僧肇は鳩摩羅什と類似した解釈を提示しているが、入不二法門品の3段の構成を3段として自覚的に明示している点において、羅什よりも理解しやすい。

3.道生の解釈は、不二を「一」と積極的に言い換え、「一」の悟達が万事のなかの根本であることを強調している。

4.慧遠は、入不二法門品の趣旨を、品名の「入」に着目して、理を正面から明らかにすることよりも、理に入る実践修行の方を強調すべきであると述べている。三階は、教化に関する段階説であり、「自覚相応の境界」については、言語によっても沈黙によっても表現できないことを強調している。

5.智顗の『維摩経玄疏』においては、一階、二階を聖説法、維摩の沈黙を聖黙然とそれぞれ規定する。さらに、維摩の沈黙を、円教の不可説の相に対応させている。『維摩経文疏』においては、第1段階を別教にあてはめ、文殊と維摩をともに円教と規定しているが、これは他の諸師が迹の次元において、文殊と維摩の間に浅深優劣の差別を設けていることと相違する。

文殊の聖説法を円教として高く評価したことは、諸法実相が言説を超越していることを踏まえながらも、円融三諦、一念三千等の理論によって実相の内的構造を明らかにしようと努力した智顗の態度と関係があると思われる。

6.吉蔵は『維摩経』の別名でもある「不可思議解脱」を「不二法門」と解釈したために、これについて誰よりも詳細に議論を展開している。三階説については、吉蔵も他の諸師と同じであるが、三段階の優劣は理を明らかにすることの浅深に基づくものであり、衆生に応じて教えを垂れることについて論じたものではないと解釈している。

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