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宗教は人々の絆をつくりあげるか ― ジェンダーの視点不可欠(2/2ページ)

多摩大グローバルスタディーズ学部教授 小松加代子氏

2015年2月6日

また、「無縁社会」という言葉は、過去のいずれかの時に、人々が縁で結ばれていて幸せな時代があったという根拠のない郷愁を生み出している。社会学者の上野千鶴子は無縁社会という言葉が想定する「有縁」は、プライバシーのまったくない息の詰まるような相互監視のムラ社会における、降りるに降りられない関係でもあったという。それに対し現在は、「選択縁」を選び取れるようになったと上野はいう。

「絆」という言葉が、共同体の同質的一体感を高めることになっては、その中で、異質なものが排除されることにもなりかねない。宗教における権力作用を視野に入れることを重要視する川橋範子は、日本仏教がかかえこむ性差別の抑圧的な要素を正しく認識し、社会をより良い方向へ向かわせる力を持つ教えと制度を作り上げるべきであると主張する。ジェンダー的視点のない抑圧的なシステムを変えずに社会との関わりを作ることは、その性差別に基づいた抑圧的な考え方を社会に持ち込むことになりかねないと危惧する。

筆者はニューエイジ、あるいはスピリチュアリティーといった言葉への共感を持つ女性たちの活動を調査している。30~80代に広がる女性たちは、その活動で経済的に自立できている人から、別の仕事をしながらヒーリングを提供している人まで様々である。

そうした女性たちの半数近くは宗教教団と関わった経験を持ちながら、宗教団体への所属を選ばなかった。それは、男性中心のヒエラルキーの確定した組織、教えの固定化、肯定的な女性像がないことなど、既成の宗教教団及びその教義への不満があったからである。また残りの半数は、宗教教団や教義といったものには一切魅力を感じていないと明言している。こうした女性たちの活動を理想化するわけではないが、日々の悩みがいわゆる宗教では解決されないと考えている人々の多さを宗教者は知るべきではないか。

既成宗教に求めるものがないと考える女性たちは、宗教団体の教義や伝統をも含め、様々な情報を集めながら、自分の体験から価値があると思うものを取捨選択する。彼女たちは個人として活動しながら、その活動に関連して複合的につながった人々と、緩やかなネットワークの中で生きている。

一方、宗教に関わっている多くの女性たちが、宗教団体へ所属することよりも、そこで行われる活動の中に宗教性を見いだしており、宗教的な価値と宗教団体の運営や権力とは別のものであると認識しているとの報告がある。宗教教団の儀式に参加するよりも、悩み苦しむ人とともにいることの方が宗教的であると考える人は、宗教を教団の枠では考えていない。

人々のつながりを作り出すことは、あくまでも個々人の活動を基とする。宗教の公益性や宗教団体の社会の中の存在意義は、まず人々が何を求めているのかを問わずして答えは得られないだろう。

ソーシャル・キャピタル論を宗教に持ち込むことは、宗教団体や組織が社会の中で何らかの役割を果たそうとする動きを描き出す一方で、既存の宗教組織にある権力関係から目をそらしている。宗教研究者は、教団や伝統的教義といった組織からの視点ではなく、現実に起きている宗教の現場に関わり、信頼のネットワークが出来上がるその有り様から、「宗教の役割とは何か」「宗教に求められているものとは何か」について学んでいくべきではないだろうか。

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