PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

真理知と世俗知 ― 解脱の手段はヨーガの実修(2/2ページ)

大谷大教授 山本和彦氏

2015年9月25日
二つの真理

仏教の中観派の祖師であるナーガールジュナ(龍樹、150~250年頃)は真理(諦)を勝義諦と世俗諦とに分ける。勝義諦は言葉や概念を超えた真理であり、世俗諦は言葉で表現できる真理である。空性体験や涅槃の体験は言葉で表現できない勝義としての真理である。一方、ブッダの教説は言葉で表現される世俗としての真理である。ナーガールジュナは『中論』(24・8~10)において、次のように言う。

 二つの真理に依存して、ブッダの法が教示される。世俗諦と勝義諦とである。この二つの真理の区別を知らない人々は、ブッダの教えの深遠な真理を知らない。言語活動に依存することなく、勝義諦は説示されない。勝義諦が得られていなければ、涅槃は証得されない。

ナーガールジュナは二つの真理を言う。一つは言葉によって示される真理である世俗諦であり、ダルマ(法)としてのブッダの教説である。もう一つは、言語活動のない寂静なる涅槃の直接体験である勝義諦である。ナーガールジュナは帰敬偈で、縁起は戯論寂滅であると言い、第25章「涅槃の考察」で涅槃も戯論寂滅であると言う。縁起も涅槃も言語活動が停止したところにある。『中論』(18・5)において空性体験は次のように言われる。

 業と煩悩との滅から、解脱がある。業と煩悩とは分別から生じる。それらは戯論から生じる。しかし、戯論は空性体験において滅せられる。

分別も戯論も言葉による活動であり、概念的知識が得られるのみである。空性体験という直接経験によって、言葉や概念は滅し、そして業と煩悩の滅した人は解脱する。

二つの認識手段

仏教論理学者のディグナーガ(陳那、480~540年頃)は、認識対象を個物としての個別相と概念としての共通相との二つに分け、それぞれの認識手段を知覚と推理とに限定する。ディグナーガの認識論と論理学を継承するダルマキールティ(法称、600~660年頃)は、概念知である推理知は誤った知識であると言う。正しい知識は直接体験である知覚によってのみ得ることができる。知覚は個物を対象とし、推理が概念を対象とする。2種類の対象があるので、認識手段も二つである。ディグナーガの知覚定義によれば「知覚は概念作用を離れたものである」(『プラマーナ・サムッチャヤ』1・3)。外界の実在は知覚によって認識される。知覚の認識結果は言語表現できない。「あれ」「それ」「空」としか言いようがない。一方、推理によって認識されたものは言語表現できる。ダルマキールティによれば、推理は概念を対象とするので誤った認識手段であるが(『プラマーナ・ヴァールッティカ』3・55~56)、知識としては確実であり、さらに人間にとって効果がある。

ヨーガによる真理知が解脱の手段

ヒンドゥー教新論理学派のガンゲーシャ(1320年頃)は、ヨーガと真理知(タットヴァ・ジュニャーニャ)による解脱のプロセスをうまくまとめている。彼は『タットヴァ・チンターマニ』において次のように言う。

 天啓聖典や伝承文学で言われているヨーガの規定によって、長時間絶え間のなく、注意深く実践した瞑想によって生じたヨーガから生じる〔純粋な〕ダルマによるアートマンに関する真理〔知〕の直接経験は、輪廻の種子である潜在印象をともなう誤知の根絶を可能にし、過失(煩悩)がなくなるので、活動(業)などがなくなり、未来のダルマ(善業)とアダルマ(悪業)が生起しなくなり、無始以来の〔輪廻している〕生存に積集された業の享受による滅から、彼は解脱する。

解脱の手段は何か。何が煩悩(クレーシャ)と業(カルマン)を消滅させるのか。それはヨーガの実修という人間の努力である。天啓聖典であるウパニシャッド記述のヨーガの実修方法による瞑想を実践すると純粋なダルマが生じる。そのダルマが真理知を発生させ、誤知(無知)を滅する。順次、煩悩と業が滅し、新たな業が発生しなくなり、いままで蓄積されていた古い業が滅したときに、その人は解脱する。

私たちが作る豊かな森 峰尾恵人氏7月24日

木の文化は持続可能か 日本は木の文化の国であり、世界最古の木造建造物である法隆寺西院伽藍や、式年造替が繰り返されてきた伊勢神宮、世界最大の木造軸組建造物である東大寺大仏殿…

《宗教とAI⑤》AI時代の人間性の発露 木村武史氏7月16日

AIに意識やこころ認めるのは錯覚か 生成AIを含むAI技術開発は社会の様々な領域に影響を及ぼしつつある。技術開発の上流で実験的に行なわれている技術開発が下流の一般社会に浸…

《宗教とAI④》予測不可能性と創造の主体 冲永宜司氏7月3日

人間による意味主体的な働き 人間にはAIに代替できない性質があるかという問いには、どんなにAIが発達しても人間の役割や尊厳は失われない、という期待が込められている。そこに…

内向き傾向への警戒 グローバルな変動に関心を(7月22日付)

社説7月24日

平和志向への支持 戦争と力の支配からの脱却(7月17日付)

社説7月22日

やまゆり園事件10年 いのちと共生考える契機に(7月15日付)

社説7月17日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加