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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

過去から茫漠とした未来を見つめる ― 自己家畜化、制御する宗教(2/2ページ)

真宗佛光寺派滋賀南教区教務所長 日野英宣氏

2016年2月24日

さらに、共感力の減退を助長しているのが通信革命である。かつて情報は人を介して伝えられたが、今やネットを通して瞬時に世界の情報を入手できる。人に出会う必要がなくなった。女優の黒木瞳さんがラジオで「声を聞きたいのにメールする。顔を見たいのに電話する。どうしてかな。自問自答する」と、誰かの呟きを紹介していた。便利なものができれば人は手を抜く。対面会話のできない若者の増加は忌々しき問題である。

ところで、家畜とは自然と切り離されて人間の文化によって管理され、形や習性を変えた動物のことである。人間も自ら作った文化で自分を管理し、文明に適応して形や習性を変えた点で、家畜に類似するという。ドイツの人類学者E・アイクシュテットは、人類が自ら家畜化していくことを「自己家畜化現象」と定義付けた。家畜化すると知能や生命力の低下を招き、集団全体が画一的な情報に教化され個性を失う。加えて人口過密に伴うストレスから争いやいじめが絶えなくなる。

想定される未来

ライト兄弟の初飛行で始まった20世紀は科学文明の時代といわれる。様々な発見や発明があり、1969年にはアポロ11号で人類が月面に降り立った。地球生命史上、脊椎動物が約3億6千万年前に上陸した快挙に匹敵するという、その輝かしい側面とは真逆に、おびただしい負の側面がある。その第一が原子爆弾の開発であり、広島と長崎に投下されて多くの一般市民が殺戮され、今もって後遺症に苦しんでいる人がいる。

そして深刻なのが、地球温暖化に代表される環境破壊である。地球物理学者の松井孝典東京大名誉教授は、人類が狩猟採集生活から農耕牧畜生活を始めた約1万年前を起点として人間圏という概念を導入して、地球システムを考えるよう提唱している。その上で松井名誉教授は、環境破壊はこの人間圏の誕生から始まったと論じる。さらに「地球に優しく」というキャッチフレーズは、人間の傲慢性を象徴する言葉だという。環境を破壊して困るのは人間自身であり、環境破壊の元凶である人間が絶滅すれば、地球は何十万年か掛けて元のきれいな姿に戻るだろうと指摘する。

また、東日本大震災で発生した福島第1原発事故も重大な環境破壊である。放射能に汚染された土地は半永久的に放棄される。政府や経済界は、世界一厳格な安全基準を設けて再稼働を目指す。しかし、問題は使用済み核燃料の処理が確立されていないことにある。大半の科学者は再稼働に反対している。

科学は文化の最先端を行くものであり、科学文明が進めば進むほど、自己家畜化現象も特化することになる。ドイツの哲学者ヤスパースは、世界各地で都市文明が栄えた紀元前500年を中心にした500年間にそれぞれの文明において、その後の人類の精神を支えた思想・宗教(ギリシャ哲学、旧約聖書に基づく一神教、仏教、儒教)が誕生したことに注目し、その時代を第一次枢軸時代と名付けた。そして科学文明が極度に進んだ20世紀から21世紀にかけては、人類の精神を支える新たな思想が誕生する時代であるとして、第二次枢軸時代と位置づけている。

宗教者の責務

都市文明で独自の哲学や宗教が生まれたのは、大自然に代わる抑止力の要求、すなわち不自然な都市環境が人間を駆り立てて行わせる反社会的行為の抑止力となる精神的支柱への要求からである。言い換えれば、自然から遊離した人間が家畜化することを制御するために生まれたのが宗教だといえる。

人間は「ゆでガエル」の例え話にあるように急激な変化には敏感だが、致命的であっても緩慢で見えにくい変化には極めて鈍感である。人間圏の未来について松井名誉教授は、個々人が構築する脳内部モデルにその根拠があることを挙げて予測不可能だと語り、「さて、あなたはどう考えるだろうか」と読者に問いかけて、NHKスペシャル番組「地球大進化」の図書への寄稿を締めくくっている。

科学によって明らかにされた道理を踏まえて、人々が自己家畜化現象に陥らないように啓発することこそ、宗教者の責務であろう。

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