PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

満洲事変前夜の『中外日報』と反宗教運動 ― 近代日本の宗教≪1≫(2/2ページ)

龍谷大非常勤講師 近藤俊太郎氏

2017年1月3日

準備会のメンバーは、機関誌・論集の刊行だけでなく、講演会、ピクニックの開催やビラ撒きなどにも積極的であった。ただ、これらの活動、特に国際反戦デーでのビラ撒きが官憲を刺激したようだ。準備会は8月13日に本部の事務所で同志5名の検挙、24日にアジト急襲と5名の検挙、9月2日に不審尋問で機関誌の原稿押収といった弾圧にあった。

仏教界の反応

マルクス主義者の宗教批判に対して、宗教界からは種々の興味深い応答があった。そのうち、仏教界の応答のいくつかを見よう。

まず、宗教批判に共感的態度を示したのが、三浦参玄洞や妹尾義郎らであった。彼らは、恐慌のなかで経済的・社会的優位にあった寺院や教団の現状を批判的に捉えており、他方で、仏教の本来性には教団の現状や資本主義を批判するだけの根拠があるとも考えていた。つまり彼らは、マルクス主義の問題提起を引き受け、仏教の自己変革を目指したのである。

仏教界では反宗教運動に対抗する組織がいくつも結成された。たとえば、田中舎身や武田豊四郎らの大乗会が組織した反宗教思想折伏連盟もその一つである。この組織には、当時の著名な仏教徒、思想家、政治家が名を連ねた。反宗教思想折伏連盟は、ソビエトを祖国視するマルクス主義者による亡国的政治革命に対抗する愛国的運動を自称し、既成宗教の腐敗を克服して宗教的信念により祖国日本に貢献しようとした。

ほかにも多くの仏教徒が反宗教運動に反論した。反論の中心は、マルクス主義者の宗教理解が平板かつ陳腐であること、仏教が社会的機能では把握できない内面性・精神性を有すること、であった。そこには原始宗教やキリスト教、宗教一般に解消できない仏教の独自性についての主張があった。

反宗教運動の終焉

こうした反論に対し、反宗教運動も徹底抗戦で応じた。支配階級に奉仕する宗教のアヘン性がいよいよ明確化したと言わんばかりであった。さらに反宗教運動は、宗教批判に共感的態度を示した宗教者さえも、徹底的に論難の対象とした。たとえ宗教批判に理解を示したとしても宗教を捨てないかぎり敵対勢力と見たのである。こうした徹底抗戦の態度は、反宗教運動を社会的孤立へと向かわせた。

1931年9月、準備会は日本戦闘的無神論者同盟と改称してその結成大会を開いた。このとき、論争の過熱ぶりは、ちょうどその頂点を迎えていた。

しかし、同月18日に状況は一変した。満洲事変が勃発したのである。それまで日本社会を騒がしていた反宗教運動は新聞・雑誌から消え、代わって、民族的公憤や祖国愛といった精神的雰囲気が日本社会を覆った。仏教界の戦時体制への再編も一挙に進められた。

まるで行方不明になったかのような反宗教運動であったが、それでも非合法的活動を1934年5月まで続けた。反宗教運動の嵐は、こうして忽然と姿を消した。

突きつけられた課題

仏教界にとって反宗教運動はさしたる脅威とは映じなかったようである。論争が沸点を迎えたタイミングで突如消失したこともあるが、仏教界からの応答は断片的なものにとどまっている。仏教界とマルクス主義がそれぞれ置かれた社会的位置からすれば、仏教界はまともに応答する必要を感じなかったのかもしれない。

とはいえ、満洲事変前夜のマルクス主義と仏教をめぐる一連の出来事は、いまなお宗教界に鋭い問いを突きつけているのではないだろうか。

資本主義の抑圧性が状況の全体を覆ったとき、宗教が果たすべき役割とは一体何か――、と。

私たちが作る豊かな森 峰尾恵人氏7月24日

木の文化は持続可能か 日本は木の文化の国であり、世界最古の木造建造物である法隆寺西院伽藍や、式年造替が繰り返されてきた伊勢神宮、世界最大の木造軸組建造物である東大寺大仏殿…

《宗教とAI⑤》AI時代の人間性の発露 木村武史氏7月16日

AIに意識やこころ認めるのは錯覚か 生成AIを含むAI技術開発は社会の様々な領域に影響を及ぼしつつある。技術開発の上流で実験的に行なわれている技術開発が下流の一般社会に浸…

《宗教とAI④》予測不可能性と創造の主体 冲永宜司氏7月3日

人間による意味主体的な働き 人間にはAIに代替できない性質があるかという問いには、どんなにAIが発達しても人間の役割や尊厳は失われない、という期待が込められている。そこに…

内向き傾向への警戒 グローバルな変動に関心を(7月22日付)

社説7月24日

平和志向への支持 戦争と力の支配からの脱却(7月17日付)

社説7月22日

やまゆり園事件10年 いのちと共生考える契機に(7月15日付)

社説7月17日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加