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2024宗教文化講座

本願寺宗法と明治憲法 ― 近代日本の宗教≪6≫(2/2ページ)

龍谷大名誉教授 平野武氏

2017年3月10日

政府は特に議会・議院や憲法という語が使用されることに神経を使った。これらの言葉は様々な方面に広がりを見せていた民権運動を刺激するように思われたからである。

民権運動の展開を受けて各地に様々な政治結社、啓蒙団体、学習団体が設置されていた。そのような団体のひとつに「共存同衆」がある。「共存同衆」はイギリス留学から帰国した小野梓らによって1874(明治7)年に設立された団体であり、活発に講演や啓蒙活動を行っていた。小野は政府内の憲法草案としては先進的なものであった(それゆえに採用されなかった)いわゆる元老院草案に関わった経験もある。小野は政府内の「民権派」とでもいうべき存在であった。

本願寺派でも寺法起草の中心となった赤松は「共存同衆」の設立に関わっている(島地もまたその会員であった)。当時の社会状況の中で本願寺派が民権運動から一定の影響を受けたことは否定できないが、とりわけ共存同衆の思想は本願寺派内で大きな影響力をもっていたと考えられる。

政府の介入もあり、憲法や議院という言葉は結局採用されなかった。赤松はこれらの語が民権運動の「前案内」のように見えるおそれがあったからと説明しているが、これは政府の思いを慮っての発言であろう。逆説的であるが、そのことから民権運動の広がりとその影響力の大きさを改めて確認することができるのである。

明治憲法は政府の弾圧・抑圧による民権運動の衰退後に成立したのであり、本願寺寺法より内容において立憲的・民主的ではなくなっている。民権運動の高揚期に制定されたからこそ寺法は先進的な内容をもちえたと考えられるのである。寺法草案が審議された「寺法編制会議」の議論も興味深いものがあるが、ここでは触れる余裕はない。

成立した寺法の内容について少しばかり紹介すれば、集会は一院制(ただし末寺から選出される総代会衆と法主が選ぶ特選会衆が存在する)の立法機関とされた(明治憲法では立法権は天皇に属し、衆議院――厳しい制限選挙の下にあった――と貴族院の二院からなる議会は立法を協賛する機関とされた。また天皇は一定の条件の下、議会の協賛を経ないで緊急勅令や独立命令を発することができた)。寺法では、執行(国政レベルでの内閣総理大臣に相当)は集会の「公認」により任免され、集会に責任を負う(集会よって規督され黜罰される)とされた(一種の議院内閣制である、明治憲法では「国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス」とするが規定上は議院内閣制を採用していない)。

司法権については寺法では規定するところはない。また明治憲法では臣民の権利について法律の範囲内で保障していたが、寺法ではそれに相当する規定はない。当然のことながら寺法には軍に関する規定もない。

政府の干渉により憲法や議院の語は採用されなかったが、統治の機構に関しては明治憲法に比べて寺法の先進性は明らかである。宗教界にも進取の気性をもつ先人がいたのである。我々はそのような自負すべき歴史をもっているのである。

もちろん今日は当時とは歴史的条件は異なる。しかしそのことを踏まえても歴史から学びうることはあろう。また宗教の出世間性、彼岸性を強調し、宗教と国家は異なる次元に属しており、両者を比較したりその関係を考えたりすることは意味がないとする考えもあろう。しかし実際は社会の中で存在する限り宗教団体の「法」は国家の法と何らかの関係をもたざるをえない。

今日、多くの教団では「議会制」を導入している。民主的な組織運営という社会的要請を無視しえないからである。教義や伝統と折り合いをつけながらも時代の要請に応え、さらに改革を進めることもありえよう。本願寺寺法についてその歴史を顧みることは今一度自分たちの立ち位置を考えることに資するであろう。

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