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第22回「涙骨賞」を募集
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現代中国の高僧・浄慧師の『中国仏教と生活禅』日本語訳刊行(2/2ページ)

武漢大講座教授・郡山女子大教授 何燕生氏

2017年11月29日

特定の信者を対象とした「禅修のあり方」に比べ、「五、人間として如何に生きるか」は、どちらかと言えば一般在家の人々に向けられたもので、在家のままで人生をどう生きるべきか、仏教をどう学ぶべきかについて、より広い観点から分かりやすく語られている。

「人生修養の四大選択」の項には「生活禅サマーキャンプ」で行われる「普茶」(お茶を飲みながら質疑応答する茶会)での参加者との問答が載せられ、「在家の信徒が仏の教えを学ぶことについて」の項にも質疑応答が収められている。一問一答から現代中国の若者の仏教に対する関心の一端がうかがえる。

「六、戒律の現代的意義」は戒律や僧侶の集団生活、僧侶としてあるべき職責と理念について、僧侶に向けて講演などで語られたもの。中国の僧侶は基本的に出家主義であり、肉食妻帯は当然認められず、生活の場も寺院の中に限定されている。激しい社会変動を見せる現代中国で僧侶に求められるものは一体何か、また若い僧侶としてどう自己形成していくべきなのか、仏教のために果たすべき責任とは何かについて、著者自らの体験を踏まえつつ自分の考えを語っている。

最後の「七、越境する生活禅」は著者が中国仏教界を代表して海外を訪問した際、他の宗教指導者と行った対談やメディアから受けたインタビュー、日本の茶人との対談、自ら編集長をつとめる『法音』誌の読者からの質問に対して述べたものとなっており、著者の国際的な活躍ぶりが分かる。

フランス枢機大主教リュスティジェ氏との対談で「仏教は、すべての宗教が互いに許容し合い、尊重し合わなければならないと主張している。そうして初めて、各宗教間にこれまであった様々な問題を解決することができる」と語っている。また、日本茶道文化会長倉沢行洋氏から趙州和尚の「喫茶去」について質問を受け、「趙州和尚が対応したのは、いずれもその場のこと」だとし、「来と去は必ずしも空間上の転移を表す」わけではなく、「一種の心情の転換を表したものであって、分別心から無分別心へ転換したことを表したもの」と述べている。

趙州和尚の「喫茶去」を「当下」(その場のこと)と結びつけて解釈される点が新鮮である。著者が唱える「生活禅」にとって「当下」は重要な概念だが、それは単に時間的もしくは空間的な意味だけではなく、いわば迷いから悟りへ、という異質の二つのものが一念によって転換・昇華されるという意味もあるようである。また「生活禅」は「禅茶一味」を説く茶道とも相通じるところがあるとも語っている。浄慧師が唱える「生活禅」は、異なる宗教との対話や異なる文化との交流が可能であることが分かる。

浄慧師が亡くなってから、はや3年がたった。昨年4月20日に河北省石家荘市や柏林寺で開催された三回忌の記念行事に国内外から千人の参列者が駆けつけてきたという。遺憾ながら筆者は校務のため参加できなかったが、学友諸君の協力を得ながら、師の没後3周年に当たる今年に本書の日本語訳を日本で出版できたことは、いささか慰めとするところである。

しかしながら分担者の一人、西村玲さんが昨年2月に急死した。西村さんは近世日本仏教の研究者として知られるが、東北大学文学部在学中の第2外国語は中国語であり、日本語の表現力に定評があるため、本書第一部の「真理と機縁にかなう現代仏教」を翻訳した他、全員の日本語訳原稿の添削を担当してもらった。あまりにも突然な悲報に共訳者一同は本当に驚き、互いにメールなどでその訃報を確認し合った。もうすこし早く出版できればよかったのにと無念の気持ちでいっぱいである。

西村さんの死は日本思想史学界、日本宗教学界にとって大きな損失である。我々は、良き友、良き後輩を失った衝撃からいまだに完全に立ち直ることができないが、彼女の協力のお陰で本書は出版することができた。本書は西村さんの最後の仕事である。ご冥福をお祈り申し上げたい。

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