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獨湛の勧修作福念佛図説(2/2ページ)

浄土宗総合研究所研究員 田中実マルコス氏

2017年12月20日
3.『勧修作福念佛図説』の特徴

独湛の『勧修作福念佛図説』では最上段に横書で「勸修作福念佛圖説」と題し、その下に横書きで「南無阿彌陀佛」と記し、中央に雲上の弥陀三尊(阿弥陀仏の胸元に卍が記されている)の立像を配し、その下段に描かれた蓮台の上に「念仏弟子」という言葉が記され、その言葉と蓮台との中間には念仏者の名を記入する空白が設けられている。また図説の左右には長文があり、最下段には版行の由来とその意図が記されている。図説の四方周囲には千余りの白圏(○印)が念珠のように配されている。

江戸中期、法然院の第6世宝洲(~1738)は東北地方に活躍した貞傳(~1731)の伝記『貞傳上人東域念仏利益傳』を編纂したが、その巻下の「作福念仏図乃由来」では獨湛図説の左右の長文の典拠について、それが「雲棲袾宏(1532~1612)の山房雜録に載る所の骷髏の図説と作福念佛の図説」を合わせたものであると述べている。

右側の長文は袾宏の「勧修作福念佛圖説」に基づくもので、作福つまり善をなして福徳を積めば人界や天界に生ずることができるが、生死を越えて不退の境地に到るには念仏往生が第一であることが述べられている。その後に32の福を挙げて、平静安穏のうちに身を持つ者は、時間ある毎に念仏を勤め、何か事があって苦悩に繋縛された者は朝晩に念仏して至心に発願して浄土に往生することを求めよ。平日福徳をなす機会に遇えば、それをなす。なしおわったならば振り返ってその福徳を憶念せよ。そしてなした福徳を浄土に回向して往生することを求願せよと述べている。

図説左側の長文は袾宏の『骷髏図説』を引用し、生前の所有物は死後にまで付き従うことはないが、悪業は間違いなく付き随ってその人を苦しめる。そこから解き放つものが改悪従善洗心念仏であると述べている。

図説の最下部には「この念仏図説は中国では昔から用いられており、大清の康煕帝(1661~1722在位)の年中に至って、詔旨をうけて図説を世に刊行して、普く念佛を勧化することになった。予め得ていた一枚を無塵居士に与えた。居士はまだ日本にこのような図はないといって、鐫刻して流通することになった。天下の人に念佛させて福を修して浄土に往生させれば、その利益は無量である。念仏して千声ごとに一圏を塗りつぶし、白黄紅青黒の五色の順に塗りつぶすようにすればよい」と述べている。

4.日本仏教に与えた念仏図説の影響

獨湛によって喚起された日本における念仏図説印施の最初と思われるのは雲洞の『丈六弥陀蓮会講百万念仏図説』である。それ以降も獨湛の図説の影響を受けた多くの念仏図説が印施され、日本においては200年にわたって念仏図説を用いての念仏教化がなされたのである。

その一端を取り上げると、まず祐天寺蔵板の香誉祐海(1682~1760)『勧修百万遍十界一心願生西方作福念仏図説』がある。その他に獨湛の詩と銀椀鏡の識語を記載している『勧修作福百万遍二世安楽図説』がある。また天性寺印施の念仏図には標題はないが、阿弥陀仏を中央に配した浄土図の周囲には「念仏一遍んをもって此圏一ツをうづミ、四辺うづミおハれバ千べんとなる。十遍んにて一ツうづめハ一万ベン、百ぺんをもってすれバ十万遍んなり、千べんなれバ百万べんとなる也」とある(同じ物が多くの寺院から印施されている)。また天保年間(1830~44)頃に活躍した遊行僧義賢の『善導法然の来迎図』はその板木が増上寺に所蔵されているが、そこにも念仏によって白圏をうずめる作福念仏図の影響が見られる。また江戸期の念仏行者徳本の名号を組み合わせた念仏図説も数種印行されている。

このように獨湛の念仏図説が受容され変遷して、教化に使われていた。

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