PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン
PR
2024宗教文化講座

『中世禅籍叢刊』にみる聖一派の禅密思想 ― 中世禅の再考≪1≫(1/2ページ)

龍谷大非常勤講師 亀山隆彦氏

2018年10月3日
かめやま・たかひこ氏=1979年、奈良県生まれ。2013年、龍谷大大学院文学研究科仏教学専攻博士課程修了(博士〔文学〕)。その後、米国仏教大学院博士研究員を経て、15年から龍谷大非常勤講師および世界仏教文化研究センターリサーチ・アシスタント。専門は仏教学、密教学、日本宗教学。主な論文に「六大と赤白二渧:真言密教思想における胎生学的教説の意義」(『真宗文化:真宗文化研究所年報』26号)など。
一.『中世禅籍叢刊』について

ウェブサイトにも明記するとおり「従来見えてこなかった中世禅の新たな性格」の解明を目的として、大須観音真福寺と称名寺が所蔵する聖教を中心に、日本各地の寺院および文庫に伝わる貴重な禅関連資料の影印・翻刻を収めたものが、本『中世禅籍叢刊』(臨川書店)である。2013年3月に、第一巻「栄西集」が出版され、18年3月の十二巻「稀覯禅籍集続」刊行をもって、ひとまず完結した。本叢刊に収録する「禅籍」のなかには、近年、新たに真福寺から検出された栄西『改偏教主決』『重修教主決』のような、まったく未知の資料も含まれ、そのことから中世禅にとどまらず、ひろく日本の仏教・宗教思想史の枠組みを刷新することも期待される。

二.聖一派とその教え

その『中世禅籍叢刊』第四巻と十一巻は、それぞれ副題を「聖一派」「聖一派続」とし、前述の十二巻とあわせて臨済宗聖一派関係の貴重な資料を収める。聖一派は、栄西の孫弟子にあたる円爾に端を発する臨済禅の一派で、鎌倉から室町期にかけて東福寺を中心に発展した。九条道家ら時の権力者に強力なパイプを持ち、政治の世界でも大きな影響力をふるったことから、近年は日本史学界でも注目を集める。栄西がそうであったように、円爾と聖一派も「純粋禅」ではなく「諸宗兼修」の禅を勧めた。とりわけ禅と密教の併修を奨励したようで、円爾自身、自らが受けた天台密教の法流を近しい弟子に伝授し、東福寺において『大日経疏』『瑜祇経』といった密教経典の講義を盛んに行っている。それら講義は弟子の手で記録され、なかでも癡兀大慧による記録が、今も大須観音真福寺に残る。講義録は『大日経義釈見聞』『瑜祇経見聞』『秘経決』と題され、本叢刊の第四巻と十二巻に収録される。

聖一派における「禅」と「密」の結びつきは、円爾の弟子において一層強固になる。なかでも、東福寺の第9世をつとめた癡兀大慧の密教に対する高い関心と深い知識は、とりわけ注目に値するだろう。癡兀大慧も、栄西や円爾と同じく天台の学僧出身で、参禅前は密教の教理と儀礼を学んでいた。興味深いのは、その密教が天台だけでなく真言も含むという点で、伝記には、両密教の教えに等しく通じていたことから、その知識を「平等義」と呼んだと記される。著作に目を向けると『菩提心論』『大日経疏』の注釈から、弟子に授けた印信、さらに密教儀礼と教理に関する口伝の記録が、多数真福寺に伝わる。講義録はそれぞれ『菩提心論随文正決』『大日経疏住心品聞書』と題し、『中世禅籍叢刊』第十一巻と十二巻に収録される。口伝の記録は『東寺印信等口決』『灌頂秘口決』『三宝院灌頂釈』として、同じく第四巻と十二巻に収録される。

さて、これら著作を詳しくみていくと、円爾や癡兀大慧が説いた「禅」の教えとは、従来の「諸宗兼修」の禅の範疇には収まらない画期的な思想であったことが分かる。たとえば、彼らが弟子に伝えた知識のなかには、後に「邪義」「邪説」に分類されることになる「胎内五位」「赤白二渧」説といった、仏教の生理・胎生学の知識と密接に結び付く密教の秘説も含まれる。さらに、それら秘説をめぐる解釈は、同時代の真言または天台僧に小さからぬ影響を残した。本稿の締めくくりに『中世禅籍叢刊』に収録される資料のなかでも、癡兀大慧『東寺印信等口決』に注目し、その内容と思想史的な意義がいかなるものであったか確認する。

三.癡兀大慧『東寺印信等口決』の禅密思想

まず首題の「三宝院東寺印信等口決」から、醍醐寺三宝院に伝わる秘密の教えに関する著作と理解される『東寺印信等口決』だが、識語には「仏通禅師(=癡兀大慧)六十八御年の御談話口決なり」と記される。癡兀大慧は、1312年に84歳で逝去しているから、本書はその16年前の1296年に行われた「御談話口決」の記録といえる。本書は計30の問答からなり、後に詳しく述べる「有覚門本有の法」と「無覚門本有の法」の概念を軸に、①即身成仏の可否②顕密の差異③禅密の優劣④密教における自心の意義――といったテーマについて議論がなされる。

「浄土宗の中に聖道門と浄土門がある」 田代俊孝氏3月18日

浄土宗開宗850年をむかえて、「浄土宗」の意味を改めて考えてみたい。近時、本紙にも「宗」について興味深い論考が載せられている。 中世において、宗とは今日のような宗派や教団…

文化財の保護と活用 大原嘉豊氏3月8日

筆者は京都国立博物館で仏画を担当する研究員である。京博は、奇しくも日本の文化財保護行政の画期となった古社寺保存法制定の1897(明治30)年に開館している。廃仏毀釈で疲弊…

語り継がれるもうひとつの神武天皇陵 外池昇氏2月29日

神武天皇陵3カ所 江戸時代において神武天皇陵とされた地が3カ所あったことは、すでによく知られている。つまり、元禄の修陵で幕府によって神武天皇陵とされ文久の修陵でその管理を…

寺の護持環境悪化 法灯を護る人材育成を (3月27日付)

社説3月29日

ジェンダーと宗教 時代の傾向の把握を(3月22日付)

社説3月27日

不活動法人対策 宗教法人制度の信頼護れ(3月20日付)

社説3月22日
このエントリーをはてなブックマークに追加