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『中世禅籍叢刊』にみる聖一派の禅密思想 ― 中世禅の再考≪1≫(2/2ページ)

龍谷大非常勤講師 亀山隆彦氏

2018年10月3日

続いて、軸となる「有覚門本有の法」と「無覚門本有の法」だが、癡兀大慧によれば、密教の説く「本有の法」には「有覚門」「無覚門」の2種があり、第一の「有覚門本有の法」とは、いかなる衆生も心中には必ず「覚悟の性」を具え、たとえ表は迷っていても、その裏には必ず覚りがあると考えることである。第二の「無覚門本有の法」は、迷いも含めて、衆生の身心のすべてが「正覚の仏体」であり、そこには裏も表も内も外もなく、すべて法身大日如来の一部と理解されることを指す。さらに「無覚門本有の法」には次のような解説も確認される。

衆生在迷の妄見は、妄りに一切衆生の色心五蘊・十二入・十八界の生滅の法と見る。諸仏自証の知見は、一切衆生の色心実相にして、本際よりこのかた常に是毘盧遮那平等の智と身となりと知見する。これをもって、直に輪廻受生の初後を押さえて、正しく法仏成道の始終と見るなり。これを無覚門の本有と名づく。(『中世禅籍叢刊』四巻、493ページ)

迷いを抱えた衆生は、自らの心も体もすべて「生滅」の法と誤解するが、仏陀は、大日如来の「平等の智と身」そのものと理解している。したがって「輪廻受生の初後」、つまり、衆生がこの世に生を受ける懐胎から出産までの一連の過程は、そのまま大日如来の「成道」のプロセスとみなされる。

もう少し詳しくいえば「輪廻受生の初後」とは、男女が性的に交合することで、両者の「赤白二渧」が子宮で混じりあい「羯剌藍」と呼ばれる胚がつくられる。その胚がさらに「頞部曇」「閉尸」「鍵南」「鉢羅奢佉」の四位を経て、完全な人体となる過程を指す。それが「法仏成道の始終」、つまり両部の大日如来の成道のプロセスと相応し、同じく『東寺印信等口決』によれば、密教行者が経験する入壇灌頂の各階梯とも完全に一致するという。あるいは、灌頂はこのような「母の胎内にある五転の次第」を経験し、大日如来の覚りをその身に得るための儀礼と理解される。

ここでいう「無覚門本有の法」、すなわち「輪廻受生の初後」や「母の胎内にある五転の次第」はおよそ禅らしからぬ術語だが、これらは、主に鎌倉から南北朝期の真言・天台密教で重用された。たとえば、母の胎内での「五位」と灌頂の一致については、鎌倉期の真言僧、道宝『理趣経秘決鈔』にほぼ同じ構造の教説が確認される。また、憲深を筆頭に、歴代の醍醐寺座主が相伝してきた灌頂の「秘密口決」を記す『纂元面授』にも「無覚門本有」「有覚本有」、さらに「輪廻受生の初後」「法仏成道の始終」といった表現が、そのまま登場する。

また『纂元面授』の場合、癡兀大慧の臨終の口決を記録した『灌頂秘口決』との間にも、類似の記述を多数有することが、近年の研究で明らかになっている。『纂元面授』は、早くとも1318年以後の成立で、癡兀大慧の諸著作に10年ほど遅れる。こういった事実を踏まえれば、本書は醍醐寺座主が相伝する「秘密口決」ではなく、癡兀大慧の教説に基づいて執筆された「禅籍」なのかも知れない。少なくとも、その成立に、癡兀大慧が何らかの影響を及ぼしていた可能性は高いと考える。

以上『中世禅籍叢刊』には、中世禅のイメージを刷新するにとどまらず、日本仏教思想史に小さからぬ影響を及ぼすだろう資料も数多く収録される。その点で、本叢刊が広く研究者の注目を集め、今後、更なる検討と評価が試みられることを期待したい。

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