PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
第22回「涙骨賞」を募集
PR
第22回「涙骨賞」を募集

《浄土宗開宗850年⑤》本願を説く人に遇う、そこに聞き開かれる仏道(1/2ページ)

真宗大谷派教学研究所所員 難波教行氏

2024年2月19日 10時08分
なんば・のりゆき氏=1983年、大阪府生まれ。大谷大大学院博士後期課程真宗学専攻満期退学。博士(文学)。専門は真宗学。著書に『たとえば、人は空を飛びたいと思う――難病ジストニア、奇跡の克服』(講談社)、論文に「真影の図画と『教行信証』」(『大谷学報』94巻1号)、「『弥陀本願義』にあらわれる第十八願観と親鸞教学」(『真宗教学研究』39号)、「立教開宗からの問い――親鸞の唯除の文への着目を手がかりとして」(『教化研究』165号)など。

1175年春、親鸞の師・法然は、善導『観経疏』の「一心専念弥陀名号」から始まる一文によって、余行をすてて念仏に帰した。現在、浄土宗教団ではこの『観経疏』の文を「開宗の文」と呼び、法然回心の年を開宗の年と定めており、本年が850年目にあたる。

開宗(あるいは立教開宗)の年時については、その他にも法然の主著『選択本願念仏集』(以下、『選択集』)撰述時とする説など、幾つか見解が出されてきた。今、その諸見解に深く立ち入ることは避けるが、いずれにしても、法然が浄土宗を開顕した意義を考えることは、親鸞を宗祖と仰ぐ真宗門徒にとっても重要である。

本願を説く仏者・法然

親鸞の言葉に導かれて浄土宗開宗について考える時、まずもって確かめなければならないことがある。それは、浄土宗を開いたのが法然であり、浄土真宗を開いたのが親鸞であるという、長きにわたって高校の日本史や倫理の教科書等に示されてきた一般的な見方は、必ずしも適切ではないということである。

昨年、真宗教団において、親鸞の誕生850年に併せて立教開宗800年を慶讃する法要が勤まるにあたっても度々言及されてきたことであるが、「真宗の教証、片州に興す」(『教行信証』行巻「正信偈」)、「真宗興隆の大祖源空法師」(同、化身土巻)、「智慧光のちからより 本師源空あらわれて 浄土真宗をひらきつつ」(『高僧和讃』源空讃)といった言葉に明らかな通り、親鸞にとっては法然こそが浄土真宗を開いた人物(祖)であり、最も具体的に出遇った諸仏であった。

と同時に、先に引いた「正信偈」の続きに「選択本願、悪世に弘む」とあることや、和讃の続きに「選択本願のべたまう」と詠われていることに注意するなら、親鸞は法然を“本願を説いた仏者”と受けとめていたと言わなければならない。

そのことはまた、親鸞が法然と値遇した29歳の出来事を「然るに、愚禿釈の鸞、建仁辛の酉の暦、雑行を棄てて本願に帰す」(化身土巻)と述べていることからもうかがわれる。親鸞にとって法然は、目の当たりに本願を説く存在であり、その教えを聞いた親鸞に「雑行を棄てて本願に帰す」と表現される翻りをもたらしたのである。

拠り処の転換

そもそも本願との値遇は、浄土宗開宗の意義を考える上で、法然においても外すことができない。

冒頭に言及した所謂「開宗の文」では、念仏が往生の業である根拠が「順彼仏願故(彼の仏願に順ずる)」という一点において確かめられている。また、『選択集』全体を凝縮したと言われる「三選の文(略選択)」では、念仏の選びの根拠が、やはり「仏の本願に依るが故に」と示されている。

このように法然は、浄土宗を立てる端緒と言うべき回心時においても、浄土宗を体系的にあらわした『選択集』においても、仏の本願を根拠としている。すなわち浄土宗の開宗とは、本願の仏道の開顕という意味をもつのである。

それにしても、なぜ仏の本願によることが、法然においても親鸞においても、それほど重要な転換点となったのか。それは、自らの思いや力に依拠するならば仏道にならない、ということが決定したからである。

もし本願によるということが、自分の思いに依拠したまま本願を頼るということに過ぎないなら、人生を一転させはしないだろう。だからこそ、法然は「余行をすてて念仏に帰す」と言い、親鸞は「雑行を棄てて本願に帰す」と言うのである。

したがって本願に帰すとは、雑行を棄てた後に起こる出来事ではない。本願に帰すとは、そのまま、自らの思いや力で取り組む一切の行を「余行」「雑行」と見る眼を頂き、棄てることになる。そしてだからこそ本願の仏道は、一切の人々に開かれたものになるのである。

「中日仏学会議」レポート 菅野博史氏12月24日

日本と中国の学者10人が研究発表 「第9回中日仏学会議」が11月1、2日に、北京の中国人民大学で開催された。人民大学には、中国の教育部に認められた100の研究基地の一つで…

宗教の公共性と倫理的責任 溪英俊氏12月12日

宗教への信頼ゆらぎと問い直し 2022年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題が社会的注目を集めた。オウム真理教地下鉄サリ…

“世界の記憶”増上寺三大蔵と福田行誡 近藤修正氏11月28日

増上寺三大蔵と『縮刷大蔵経』 2025年4月、浄土宗大本山増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書(以下、増上寺三大蔵)がユネスコ「世界の記憶」に登録された。 三大蔵とは思渓版…

宗教界歳末回顧 節目となる年、節目とする年(12月24日付)

社説12月25日

地球環境危機 宗教の叡智発信を(12月19日付)

社説12月23日

信仰と生活文化こそ糧 パレスチナの訴え(12月17日付)

社説12月19日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加