カール・バルト入門 21世紀に和解を語る神学…上田光正著
バルトの神学は「神の言葉の神学」として知られ、その立場は新正統主義とされる。著者によれば彼の神学の中心となるのは「恵みの選びの教説」とその具体的展開としての「和解論」であり、それが優れて現代的な意義を持つという理解は本書のサブタイトルに示されている。
著者によれば、バルトの思想を理解するために必要な彼の著書はほとんど全て邦訳されているという。全13巻、計1万㌻以上の大著『教会教義学』はその一部だ。著者が「感無量」の思いを述懐するように、日本のキリスト者、思想家が「まさに命がけの努力と熱心」で「『バルト神学』なるものにかじりつき、何とかしてわが教会のものにしようとしてきた」ことを証すものかもしれない。
神学史的位置付けはいずれ定着するが、バルトの神学に関しては、未だに何が継承されるべきかが解明されていないと著者は語る。人類の運命や信仰の価値が混迷の中で見失われた世俗化の状況下、生きて働く神と人間の関係を通じ根源的な「和解」の希望の方向を指し示そうとするものとは言えるだろうか。
ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナという深刻過ぎる対立が和解の兆しも見せない現在「21世紀を和解の世紀とする」神学の真価が問われる。
定価2640円、日本キリスト教団出版局(電話03・3204・0422)刊。