PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン
PR
第21回涙骨賞募集 2024宗教文化講座

重要文化財新指定の「中山法華経寺文書」その全貌(1/2ページ)

立正大名誉教授 中尾堯氏

2024年5月1日 13時01分
なかお・たかし氏=1931年、広島県生まれ。立正大大学院修士課程修了。文学博士(東京教育大)。立正女子短期大、立正大教授を経て現在、立正大名誉教授。法政大、慶応大非常勤講師等を歴任。著書に『中山法華経寺史料』『日蓮宗の成立と展開ー中山法華経寺を中心として―』『日蓮信仰の系譜と儀礼』『日蓮真蹟遺文と寺院文書』『日蓮』『日蓮聖人と法華の至宝』等がある。

日蓮宗の大本山として知られる中山法華経寺の古文書839点が、令和5年度の国の重要文化財に新指定された。すでに指定を受けている国宝・重要文化財76点を加えると915点にも上り、質量ともに豊かな文書群である。

中山法華経寺の古文書は、他に類例のない特徴を持っている。それは、日蓮聖人が立教開宗した建長5(1253)年よりも前の建長元(1249)年から、明治初期に至る620年にもわたる古文書が伝来していることである。

昭和42年夏、聖教殿という宝蔵に納められている、日蓮聖人ご真蹟の『要文集』4冊の紙背から、富木常忍にまつわる古文書がみつかった。そのうち『双紙要文』の袋綴じになった冊子の紙背に、建長元年から2年にわたる古文書と、「沙弥常忍陳状」という富木常忍の文書がある。

富木常忍は、下総国(千葉県)の守護の地位にある千葉介頼胤の家臣で、政務にいそしむ毎日を送っていた。早くから日蓮聖人の信者となり、もっとも信頼されたひとりである。聖人の入滅後には、自ら出家して日常と称し、自宅を法華寺に改めて住持となった。

この寺が今の中山法華経寺で、その開祖が日常その人である。つまり、日常が日蓮聖人の信者になる前からの古文書で、紙背文書にしろ今日に伝わっているのは、他では見られない特質である。

富木常忍は、日蓮聖人から度々書状や信仰の書などを送られ、これを「聖教」として護持することを自らの使命とした。『観心本尊抄』には特に気を配り、次の日高の代に『立正安国論』が加わって、共に国宝に指定されている。その他の日蓮聖人の御真蹟は、すべて国の重要文化財である。

そのほか未指定の聖教を含め、もっとも重要な鎌倉時代の典籍・古文書が聖教殿に納まっている。このたび新たに指定された古文書は、本院に納まっている古文書である。時代的には開山の日常から明治期に至り、内容は中世と近世に二分される。

中世の文書

中世文書については、昭和34年から研究に着手し、昭和43年に吉川弘文館から出版した中尾堯編『中山法華経寺史料』のなかに、「中山法華経寺文書Ⅰ」として収録した。ここには、鎌倉時代末(13世紀末)から近世初頭(17世紀半ば)に至るまでの、85点ほどの古文書を収めている。

これらの古文書の内容は、中山法華経寺一門の掟と寺院の継承を定めた置文・譲状などと、俗別当(大檀那)としての千葉氏一族に関係する文書である。さらには、貫首と末寺の取り決めに関する文書が加わっている。

中世文書の冒頭は、開山の常修院日常の「日常置文」で、鎌倉時代後期の永仁7(1299)年3月4日付となっている。今度の指定にあたっては、本書ではなくて写本とされている。

この置文とは、亡きあとの心得を記したいわば遺書のことで、中山法華経寺一門の承知しておくべき事柄が、明確に述べられている。日常はその冒頭で、「(日蓮)聖人御書ならびに六十巻以下の聖教等は寺中を出すべからず」と、なによりも日蓮聖人の真蹟遺文を護持することを命じている。

この方針を実行するには、『観心本尊抄』をはじめとする日蓮聖人の聖教を納めた蔵に当番の僧を置き、厳重に護持しなくてはならない。中山法華経寺に多くの聖教が伝来しているのは、ひとえにこの置文の定めを、歴代の住持が厳格に受け継いできたからである。

宗教法人法をどう理解するか 田近肇氏7月22日

2022年7月の安倍元首相の殺害事件の後、旧統一教会の問題に関連して、違法な行為をしている宗教法人に対して所轄庁は積極的に権限を行使すべきだとか、さらには宗教法人法を改正…

災害時・地域防災での寺院の役割 ―大阪・願生寺の取り組みからの示唆 北村敏泰氏7月8日

要医療的ケア者向け一時避難所など地域防災に寺院を活用する取り組みを継続している大阪市住吉区の浄土宗願生寺(大河内大博住職)で先頃、大規模地震を想定した避難所設営の図上演習…

公的領域における宗教 ― 他界的価値と社会的合法性 津城匡徹(寛文)氏6月27日

「合法性」という規範 今年5月31日付で、単著『宗教と合法性――社会的なものから他界的なものまで』を刊行した。同書は、宗教がらみの非合法な行為を主対象としたものではないが…

漂流ポスト寺で継承 故人への思い受け止め(7月24日付)

社説7月26日

孤立出産女性への支え まず事情を聴くことから(7月19日付)

社説7月24日

SNSがもたらす錯覚 信頼する情報の見分け方(7月17日付)

社説7月19日
このエントリーをはてなブックマークに追加