日蓮 「闘う仏教者」の実像…松尾剛次著
地震や疫病、蒙古襲来など激動の鎌倉時代を生きた日蓮について、遺文などの史料を通じて思想や人物像に迫っている。
本書の随所で言及されるのが、叡尊教団(後の真言律宗)の高弟、鎌倉極楽寺の忍性についてだ。日蓮は忍性ら律僧を「布・絹・財宝を蓄え」ていると批判したが、著者は忍性が経営したハンセン病患者の治療施設には莫大な資金が必要であったことを日蓮は無視しているとし、忍性を擁護する。
忍性の傘下の行敏が日蓮を訴え、日蓮が佐渡配流となったことについては、忍性は日蓮が他宗派批判をすることを謝罪してほしいと思っただけで、佐渡配流からの早期赦免を望んだという。日蓮が2年半ほどで配流を解かれたのは、蒙古襲来を予知できた異能者だからという説は否定できないものの「『本朝高僧伝』が記すように、極楽寺忍性らの嘆願による可能性の方が高い」と指摘し、忍性が果たした役割を著者は高く評価する。
弘安の役では、日蓮は真言僧らに祈禱を任せている現状を批判し、日本は蒙古に滅ぼされると予言。もしそうならなければ真言宗はすぐれていると主張したのに対し「神風」が吹き、当時の貴族や僧侶は叡尊の祈禱のおかげと考えた。日蓮は失意の状況に陥り、病魔に侵され亡くなったとする。
定価924円、中央公論新社(電話03・5299・1730)刊。