ためさるる日 井上正子日記 1918-1922…井上迅編
京都の四条河原町付近に、徳正寺という真宗大谷派の町寺がある。ここの納骨堂から2017年春、6冊の古びた日記帳が見つかった。1918(大正7)年から22(同11)年にかけて、この寺で生まれ育った井上正子という少女が書いた日記で、書かれた時期は正子の12~16歳に当たる。本書はこの日記を翻刻し、一冊にまとめたものだ。
日記帳は、正子が通っていた女学校から支給されたもののようで、書くことは宿題の一つだったらしい。人に読まれることを前提としていたわけだが、多感な年頃の女の子の、率直な胸の内をありのままに伝える。スペイン風邪や第1次世界大戦、米騒動といった国内外の情勢のほか、当時の大谷派寺院の日常に関する記述もあちこちに見られ、近代化の途上にあった日本の様子を伝える貴重な一次資料とも言えるだろう。編者によるコラムのほか、磯田道史、小林エリカ、藤原辰史各氏による寄稿も掲載する。
編者は徳正寺の現住職で、井上正子のめいの子に当たる。つまり、編者は大伯母が残した日記帳を暗がりから見つけ出し、埃を落として光を当てたことになる。こうした形で読まれるとは泉下の正子は想像だにしていなかったに違いないが、はにかみながらほほ笑んでいるのではないかと思われる。
定価3080円、法藏館(電話075・343・5656)刊。